前社長の辞任取り消し要求を巡るゴタゴタで、富士通という巨大企業が揺れているのは周知の事実だ。泥沼劇の詳報は他稿に譲るとして、同社でなぜあのような混乱が生じたのかについて、全く別の切り口で見てみたい。

 筆者が注目したのは、富士通が旧電電公社(日本電信電話公社)ファミリーの中核を成す企業だった点だ。

スキャンダルの裏に見え隠れする「旧電電ファミリー」体質

 富士通が混乱する過程で、同社の内情を知るアナリストやコンサルタント関係者は異口同音に秋草直之取締役相談役の存在に触れた。

 同氏は2003年に社長を退いたあとも、会長、取締役相談役(6月に取締役退任予定)として「実質的な院政を敷いていた」(外資系証券アナリスト)と言われる。

 なぜこのようなイメージが定着したかといえば、同氏が旧電電公社の第4代総裁だった秋草篤二氏の実子だったためだ。

 電電公社発足当初から、公社は使用する電気通信機器の大半を、富士通や日本電気(現NEC)、日立製作所、沖電気などの「ファミリー企業」から調達していた。ファミリー企業は電電公社向けに(NTTになってからも)、半ば独占的に機器を納めることで売り上げを伸ばし、成長してきた。

 このため、一連の富士通の混乱が露呈した際、「いまだに旧電電公社総裁の威光を笠に秋草家が富士通という企業を隠然と支配している」(同)、「電電族から脱皮できていない証左」(外資系運用会社)などといった観測が次々に出てきたわけだ。

 また、解職が不当だと主張した前社長の野副州旦(のぞえ・くにあき)氏が、富士通のHDD(ハードディスクドライブ)事業の売却などの施策を通じて大規模構造改革を進めてきた人物だったことから、「急激な改革路線を良しとしない院政側が巻き返した」(あるITコンサルタント)とのうがった見方も広がった。

 富士通は、野副氏とのトラブルが表面化した際、当初の野副氏退任理由を撤回。それはまさに「投資家や株主を冒涜する行為」(先の運用会社)であり、そうしたIR(投資家向け広報)での失態も同社の「古い経営体質」を浮き彫りにすることとなった。

 筆者は、旧電電ファミリーのすべてが古い経営体質を引きずり、株主や投資家を軽視していると断ずるつもりはない。

 ただ、今回の富士通スキャンダルを通じ、「旧電電ファミリーの先行きが、にわかに精査されているのは事実」(同)だ。長らく日本の電気通信業界に君臨してきた旧電電ファミリーは、これからどうなっていくのだろうか。

NTTのグローバル調達で「ファミリー」のシェアが低下

 ファミリー各社が得意としてきた事業分野の現状について見ていこう。