ASEAN経済共同体(AEC)の発足を目前に控え、「6億人超の巨大市場を攻略せよ!」といった見出しの新聞記事も目につくようになってきた。ASEAN(アセアン)について書かれた本も多数出版され、書店の棚を賑わせている。
ASEAN(Association of South East Asian Nations)の設立は1967年。ベトナム戦争を背景に、東南アジアの政治的安定・経済成長促進が設立の目的であったのだから、今では隔世の感がある。現在では10ヵ国が加盟し、総人口6億1,000万人、域内の名目GDPの総計は1.8兆ドル、域内総貿易額は2.1兆ドルに上る巨大なマーケットを形成している。
この大きな市場をより魅力的にし、そして成長のベースにするために、2003年にASEAN経済共同体の創設合意がなされた。以来、12年の月日をかけて準備が行われ、本年末にいよいよAECが船出するのである。
AECは次の4つの戦略目標を掲げる。
- 1. 単一の市場と生産基地(物品・サービス・資本・投資・熟練労働者の自由な移動)
- 2. 競争力ある経済地域
- 3. 公平な経済発展
- 4. グローバル経済への統合
ヒト、モノ、サービス、カネという経済資源の効率的運用を行うことで、域内の経済発展を加速させようというビッグプロジェクトである。
国によるバラつきが大きく
6億人は一つのマーケットではない
しかしAECがスムーズにテイクオフしていくのはそんなに簡単ではなく、より長い時間がかかると考えられている。時間がかかる最大の要因は、加盟各国の多様性である。
表を見ていただきたい。確かに6億人を超す巨大マーケットであるが、その構成要素は決して均一ではない。人口は特定地域に偏在し、大きな所得格差が存在し、宗教による生活やビジネスの習慣に違いがあり、そして外資の投資に対して規制の濃淡がある。
また各国のインフラの整備状況には歴然とした差があり、整備に向けた政府の能力や姿勢にもバラツキがある。AECは、EUのような共通ガバナンス機能や強制執行能力が存在しないし、ましてユーロのような共通通貨もない。その意味で、6億人という人口を一つのマーケットとしてとらえるのは、現時点では無理なのである。
一方、ASEAN内の「後進国」の準備が整い、市場が真に統一するのを待つというのも余りにも能がない。市場のおいしいところは、目ざとい中国や韓国の企業にさらわれてしまうであろう。インドネシアの新幹線を失注した際には、「中国にしてやられた」というやるせない思いが日本中に充満したが、二度と同じ思いはしたくないものである。