ベートーヴェンの頭の中に響いている第九がオーケストラによって的確に再現されていたのか? 今となっては、永遠の謎です

 12月は師走。落ち着き全てを悟る師ですらも、慌てて走り回らざるを得ぬほど、12月は忙しいという含意があります。人間生きていれば、様々な事柄が好むと好まざるにかかわらず身の回りに起こります。素晴らしき事も意に沿わぬ事も忘れてしまいたい事もあるでしょう。だから、年の瀬ともなれば、今年のことはできるだけ今年のうちに決着させておこうというのが人情です。そして正月はフレッシュな気持ちで新年を迎えるのです。

 で、12月の風物詩といえば、ベートーヴェンの第九です。と言うわけで、今月の音盤セレクトは、ベートーヴェンの交響曲第九番『合唱』です(写真は、フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管弦楽団演奏の1951年盤)。

第九とは何か?

 第九は、ルードヴィッヒ・ベートーヴェンが作曲した交響曲のうち九番目にあたります。それ故、第九と呼ばれていますが、正式な名称は、

「シラー作、頌歌『歓喜に寄す』を終末合唱にした、大管弦楽、四声の独唱、四声の合唱のために作曲され、プロイセン王フリードリッヒ・ヴィルヘルム三世陛下に最も深甚な畏敬をもって、ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンによって奉呈された交響曲、作品一二五」

 といいます。

 演奏時間は優に1時間を超える超大作にして、すべての交響曲の王者に相応しい名称だと思いませんか?

 第九の最大の特徴は、管弦楽と合唱を統合したことにあります。交響曲の歴史において初めて声楽を導入しました。それは凡人の発想を遥かに超える革新的な先進性です。

 正式名称のとおり、最後の第4楽章において、“歓喜の歌”が独唱・合唱で歌われます。ときに、数百人が参加する歌です。人間の声が持つ圧倒的なチカラを見せつけます。

 それ故、初演から191年を経て、輝き続けています。

シラー作「歓喜に寄す」に相応しい音楽を

 ベートーヴェンが第九に至る革新的な楽曲を最初に発想したのは、彼が22歳の頃です。田舎街ボンの神童は、楽都ウィーンに出てきたばかりの頃、青雲の志を持った若く無名の青年音楽家でした。ドイツ古典主義の巨匠シラーの頌歌『歓喜に寄す』と出会い感銘を受けるベートーヴェン。いずれこの偉大な詩に相応しい音楽を創るのだと思い定めます。