ドラマ「下町ロケット」は阿部・吉川のツインタワー

『下町ロケット2 ガウディ計画』池井戸潤・著(小学館・刊)

 この本『下町ロケット2 ガウディ計画』は、テレビでドラマが同時進行中という驚異的なもの。12月20日の最終回、見られましたか?でも、なんで本の原稿アップからたった2~3ヵ月で、テレビドラマ(配役やシナリオや台詞やロケ手配……)がつくれるのか、まったく意味不明です。
 人間やろうと思えば何でもできる。いや、視聴率が稼げそうな「本」のためなら、テレビ局はあらゆる不可能を可能にする存在なのでしょう。
 その配役で一番気になるのは、帝国重工の財前部長です。いわゆる「大企業の部長」役を、反逆のロッカー 吉川晃司が務めるというのですから、そそられます。これで主人公である佃航平(佃製作所社長)役の阿部寛と2人、182cmと189cmのツインタワー。平均185cm超の圧倒的迫力です。視聴率20%超え(第5.8.10話)も頷けるというもの。
 これで池井戸潤作品は、テレビドラマ界でもっとも視聴率が稼げる原作者の名を不動のものにしたのでしょう。ほとんどが同時期でのトップ視聴率を叩き出しているのですから(*1)

なぜ『ガウディ計画』で「財前」が悪役でないのか?

 しかしそんな神のごとき池井戸潤でも、見通せないことがあるのでしょう。「財前部長」自身がそれを示しています。
 このドラマ「下町ロケット」は、原作でいえばその1と2(ガウディ計画)を両方カバーする贅沢なものです。前半はロケットエンジン部品である燃料供給バルブがテーマで、後半はそれに医療機器である心臓用人工弁バルブが加わります。ロケット開発主体である帝国重工の財前部長は、その両方に関わりを持ち、ずっと登場する主要人物です。だからこその吉川晃司!
 でも、思いませんでしたか? 医療テーマで「財前」といえば悪役の名前だろう、と。
 山崎豊子『白い巨塔』(1965)は累計590万部を売った超ヒット作で、3度テレビドラマ化されています。物語の中核は、大学病院から下野した人権派の医師 里見脩二(2003年ドラマでは江口洋介が演じた)でも誰でもなく、その象牙の塔を登り詰めようとする新進気鋭の外科医 財前五郎(同 唐沢寿明)でした。傲岸不遜で上昇志向が強く、仲間を駒扱いし裏切りを許さない。患者を死なせてもそれを顧みず、組織の頂点を目指したスーパー・エリート医師。それが「財前」なのです。バリバリの悪役です。
 それが『下町ロケット2 ガウディ計画』では佃製作所の医療分野進出をサポートする側に回っているという……。これは、変ですよね。さすがの池井戸潤も、『下町ロケット』を書いているときには、のちに佃製作所が医療分野に進出するとは、思ってもいなかったのでしょう。

*1 平均視聴率はなんと、2013年の『半沢直樹』が29%、2014年の『花咲舞』が16%、『ルーズヴェルト・ゲーム』が15%、2015年の『花咲舞2』が14%、『下町ロケット』が19%。でも私が一番好きなのは6%に留まった2013年の『七つの会議』(NHK)。