2015年12月24日、クリスマスイブの日、ひとり親世帯にとっての「命綱」、児童扶養手当の増額が決定された。2人目以後の子に対しては、実に36年ぶりだ。しかし同時に「不正受給対策」も盛り込まれている。生活保護では、不正受給対策を理由とした利用抑制が1954年から開始されて現在に至っている。

政府から子どもたちへの「クリスマスプレゼント」を、我々はどう受け止めればよいのだろうか?

増額しても生活保護以下の児童扶養手当

36年ぶりとなった児童扶養手当の増額。しかし、実態は「毒入り危険」なものだった!?

 本記事公開の前日、クリスマスイブ当日の2015年12月24日、2016年度予算政府案が閣議了承された。政府予算案はこのまま、年明けの国会で可決されるものと予想される。

 この政府予算案には、2016年度からの児童扶養手当増額も盛り込まれた。ひとり親家庭(父子家庭は2010年より)を対象とした児童扶養手当の給付額改定、それも2人目以後の子に対するものは、実に36年ぶりである。

 今回の増額では、2人目の子に対して現在の5000円から同1万円に、3人目以後の子に対して現在の3000円から満額6000円への増額が行われる。1人目に対しては満額4万2000円であるから、ひとり親で3人の子がいる場合、月額5万円から約5万8000円の増額となる。「(一財)子どもの貧困対策センター あすのば」をはじめ、数多くの民間団体が粘り強い働きかけを続けてきた成果であることは間違いない。

 しかし、今回の増額を「子どもたちへのクリスマスプレゼント!」と単純に喜んでよいのだろうか?

 まず、「3人の子どもがいるシングルマザー・シングルファザーに対して、1ヵ月あたり58000円」という金額は、あくまでも満額の場合の話だ。満額が支払われるのは、稼ぎ手である親の収入がおよそ228万円以下(諸控除なしのケース、控除後の金額で133万円未満)の場合である。親の収入がおよそ228万円を超えると、収入に応じた減額が行われ、460万円を超えると給付されない。親の収入が220万円とすると、満額の児童扶養手当を加えて、世帯年収は約280万円。今回の増額で、これが約290万円になるのである。ちなみに今回の、2人目以降の子に対する増額分も、収入に応じた減額の対象となる。

 親の収入が満額の児童扶養手当の対象になる場合、生活保護の対象となる可能性もある。たとえば大分県由布市で、32歳の母親・子ども(8歳・5歳・2歳)という組み合わせで生活保護費を計算してみると、生活費(冬季加算・母子加算を含む)と住居費の合計で年間約230万円となる。この他、子どもの教育費用の一部・医療費も生活保護の対象となる。生活保護を利用していない場合に発生する自費負担の数々、特に親自身を含めた医療費を考えると、同じ世帯に対する児童扶養手当は、今回の増額後の年間約290万円でも「充分」とはいえないだろう。

 しかも地方では、児童扶養手当が生活保護以上に、ひとり親家庭の「命綱」となっている。生活保護を利用すると、原則として車の保有・運転はできなくなるため、「夜中に子どもが急病になったら救急車を要請するしかない」ということになる。もちろん、日常生活にも求職にも就労継続にも支障が発生する。もし、地域のインフラ整備状況を考慮して「健康で文化的な最低限度の生活」を考えるならば、そこに車が含まれることは当然ありうるだろう。自動車の保有率は、全国平均で72.8%(2014年全国消費実態調査の28表)となっており、「ぜいたく品」とみなさず生活保護世帯に所有を認める基準「70%」を超えているのだが、現在のところ、生活保護世帯に車の所有を認める動きは見られない。

 また偏見が強い地域では、生活保護を利用するなら、地域コミュニティや親戚づきあいから親子とも排除されることを覚悟しなくてはならない。ひとり親家庭に「生活保護か、あるいは車と児童扶養手当か」という究極の選択を迫るのが、残念ながら、現在の日本なのだ。