実は、アクション映画的にもっと痛快な作品にするには、ラストシーンで刑事が御曹司をボコボコに袋叩きにした方が良かったのかもしれません(笑)。けれど私としては、刑事がさんざん殴られながらも、最後は御曹司に手錠をかけるというシーンが大事だと考えました。つまり、司法に則って逮捕すること、そして法廷に持ち込み、犯罪を証明して審判にかけることです。

 現実の韓国社会には、「金があれば法律さえも動かせる」という考えがはびこっています。だから、なおさら観客は共感してくれたのでしょう。

ラブストーリーだけじゃない!
実は社会派作品も多い韓国映画

韓国社会にはびこる拝金主義への怒りが大ヒット映画『ベテラン』を生んだリュ・スンワン
1973年生まれ、42歳。幼い頃からジャッキー・チェンやユン・ピョウ、サモ・ハン・キンポーなどの香港映画に心酔する。長い下積み後、「ダイ・バッド~死ぬか、もしくは悪(ワル)になるか~」(2000年)で青龍映画祭新人監督賞を受賞。以降、斬新なアクションと脚本で人気を確立。10年の「生き残るための3つの取引」では、「韓国犯罪映画の可能性を広げた」と高く評価され、青龍映画祭監督賞を受賞し、ベルリン映画祭にも正式出品された。13年には「ベルリンファイル」で韓国スパイアクション映画の興行新記録を樹立した。

――日本人からすると、韓国映画といえばラブストーリーという印象があるのですが、ベテランのように世相を反映したり、社会が抱える問題を浮き彫りにしたりするような映画は増えているのですか。

 日本では知られていないのかもしれませんが、今、韓国ではこうした作品は多いんですよ。私が2010年に手掛けた「生き残るための3つの取引」もそうですし、以降、たくさんの作品が出ています。お薦めの作品としては、「折れた矢」、「トガニ 幼き瞳の告発」、「犯罪との戦争」(日本タイトル「悪いやつら」)などです。どれも韓国社会の問題点を真正面から描いたもので、こうした作品は近年多く撮られています。

――ベテランのヒットにより、16年はますますこうした作品が増えそうですか。

 韓国で15年11月に公開された「内部者たち」という作品も社会問題を正面から扱っています。韓国では依然としてさまざまな社会問題を抱えていますが、それでも、映画作品にして公に問題を語り合えるという状況は、良いことではないでしょうか。

 大企業の倫理観について扱っているベテランが、大企業の資本で作られたということも、まだ韓国社会が崩壊していないことを証明していますし、韓国社会が回復できる力があるんだということの、裏返しだと思います。

――確かに、制作・配給を手掛けるCJエンタテインメントは大手財閥系企業ですね。

 韓国の映画産業の歴史はまだ浅く、CJが映画に進出してからもまだ20年くらいです。

 しかし今や、韓国の映画市場は世界で数本の指に入る規模に成長しています。映画はひとつの産業として確立されていますから、投資をする企業がおかしな介入をするようなことはないですよ。

 韓国において、映画産業は他の産業に比べて健全です。映画を愛するスタッフが集まり、映画を作っていますから。財閥の好みで作るわけでは全くありません。