以上のことを検討すると、フィンテックは「決済スキーム」が主であり「個人の海外決済(送金)」が中心となる可能性が高い。また、「電子マネー」や「企業通貨」の問題、そして「ブロックチェーン技術」の問題は、銀行の業務とは哲学が違う別世界の話となっている。

主戦場は個人の海外決済
銀行はイノベーションの方向性を見誤るな

 このように特にフィンテックの銀行の決済業務に与える影響については、フィンテックは基本的には、法人ではなく個人(リテール)分野であり、しかも、国内分野ではなく海外決済の分野である。さらに海外の個人決済では、手数料無料でクレジットカード等が使え、個人の純粋な送金(決済)は件数・金額がそれほど多くない。したがって、フィンテックの銀行(特に決済業務)に与える影響は世間で騒がれているほど大きくないのではないか。

 しかしながら、イノベーティブな新金融スキームの動きはフォローする必要がある。新決済スキームも「子会社」による対応するのが、「イノベーションのジレンマ(従来の業務部が邪魔をする)」を回避する意味からも、大事である。決済分野で方向性は銀行ができないような「付加価値サービス」を導入することも考えるべきであろう。

 たとえば、決済スキームでも現在の銀行のシステムでは「時間」の概念に対応できないが、サブでデータを補完できれば決済が高度化する。

 別世界と考えている「企業通貨」や「電子マネー」、および「ブロックチェーン技術」も現在の決済体系に“連結”し“補完”し、さらに“金融以外”のデータを付加する形で、導入することが必要であろう。またフィンテックでは、ITで決済以外のデータを活用する対応、たとえば融資スキームでは活用が期待できる。しかし「ビッグデータ」的な発想は銀行には合わない。顧客個人の取引で守秘義務があり、取引の情報の公開はできない。実際には名前を隠しても、取引パターンから会社の類推ができる可能性があり、十分な注意が必要である。

 最初に書いたように、フィンテックと呼ばれているものは、以前から行われているものが多い。まずは、煽られないことが大事である。特に、「決済」では、安全性・利便性・効率性の3点が評価の基準である。“銀行”にとっては、簡易な方法を導入し、「安全性」が緩くなることが最も注意すべき問題である。

※「宿輪ゼミ」は2015年9月に、会員が“1万人”を超えました。
※ 本連載は「宿輪ゼミ」を開催する第1・第3水曜日に合わせて、リリースされています。連載は自身の研究に基づく個人的なものであり、所属する組織とは全く関係ありません。

【著者紹介】
しゅくわ・じゅんいち
 博士(経済学)・エコノミスト。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、来年の4月で10周年、まもなく200回開催、9月に会員は“1万人”を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書には、日本経済新聞社から(新刊)『通貨経済学入門(第2版)』〈15年2月刊〉、『アジア金融システムの経済学』など、東洋経済新報社から『決済インフラ入門』〈15年12月刊〉、『金融が支える日本経済』(共著)〈15年6月刊〉、『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか(第2版)』(共著)、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』、『決済システムのすべて(第3版)』(共著)、『証券決済システムのすべて(第2版)』(共著)など がある。
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