2016年の金融市場はどう動くのか。それを読み解くには、再浮上した中国問題に加え、中東における宗教対立の激化など、世界中で顕在化する地政学リスクに迫る必要がある。(週刊ダイヤモンド編集部 重石岳史、山口圭介)

「申酉(さるとり)騒ぐ」──。その相場の格言通り、申年の金融市場は、相場の振れ幅が激しい波乱の幕開けとなった。犯人は、世界中の市場関係者が注視する二大リスクだ。

 最初の震源地は中国だった。取引初日の1月4日に公表された中国製造業の景気指数が振るわず、上海市場が急落し、相場の極端な変動を抑制する「サーキットブレーカー制度」を導入初日に発動する異常事態に追い込まれた。それが日本、欧州、米国へと飛び火し、世界同時株安の様相を呈した。

 この景気指数の低迷は10カ月連続で、中国景気の減速はもはや疑いようがない。昨年の中国株暴落を経て、政府による株価買い支え策が限界に達しているとされ、「政府が経済の構造転換に失敗すれば、“中華帝国”の落日が本格化する年になるかもしれない」。ベテランの債券ディーラーはそんな悲観シナリオを描く。

対立激化の裏に
シーア派イランの
“サウジ包囲網”

 同時株安に追い打ちをかけたもう一つのリスクが、中東の二大盟主国が全面衝突するという新たな地政学リスクだ。

 イスラム教スンニ派の盟主を自任するサウジアラビアが2日、敵対するシーア派の指導者を含む47人を処刑した。これに激怒したのが、ペルシャ湾を挟んで長年にわたって敵対してきたシーア派の首領イランである。首都テヘランでは暴徒化した人々がサウジ大使館を襲撃し、事態は国交断絶にまで発展している。

サウジアラビアによるシーア派指導者の処刑を受け、イランで大規模デモが起こり、一部が暴徒化
Photo:Anadolu Agency/gettyimages

 両国はこれまでにもシリアやイエメンで代理戦争を繰り広げてきたが、指導者の処刑と大使館の襲撃で、怒りが沸点に達した格好だ。

 その背景には、中東で支配力を拡大するイランに対するサウジの警戒心もあるとされる。イランは、シーア派主導の政権であるイラクやシリア、レバノンの後ろ盾となりつつ、イエメンでは、スンニ派政権の打倒を狙うシーア派系武装組織を支援し、スンニ派のサウジを取り囲むような、“サウジ包囲網”を形成しつつあるからだ。