「北九州市立自然史・歴史博物館 いのちのたび博物館」は“ミュージアムコンプレックス”という方式を持つ画期的な博物館として名高い。東京・足立区にある「ギャラクシティ」は子どもたちが主体的に参加する子ども体験施設として注目を集めている。両施設を手掛けたのは丹青社の文化空間事業部。事業者の要望に応え、用意された資源を十全に活かしながら、文化的価値を効果的に提供できるデザインとは、どのように生み出されるのか? 同社文化空間事業部の高橋久弥に聞いた。

事業主の課題を解決する
“ミュージアムコンプレックス”

高橋久弥(たかはし・ひさや)
プリンシパル クリエイティブディレクター

ミュージアムをはじめとする情報空間のデザインを数多く手がける。主な実績に、「国立科学博物館地球館」、「國立海洋科技博物館」(台湾)、「三笠市立博物館」、「仙台市博物館」、「みやざきアートセンター」など。千葉大学工学部非常勤講師

 北九州市からの課題は、それまで別々に設置されていた“自然史・歴史・考古”の3つの博物館を統合し、大規模なミュージアムを新設すること。それぞれの特徴を活かす展示構成を導き出し、集客力のある施設を実現し、継続的に活性化していくことだった。

 そこで高橋が考案したのは、従来型の単一的な動線ではなく、ショッピングモールのように様々な特徴を持った施設を組み合わせ、興味や滞在時間に合わせて自由に体験ができる「ミュージアムコンプレックス」だった。

「決して奇をてらったわけではなく、3つの博物館にストックされている膨大な研究成果や標本類を、いかに効果的に展示していくかを考えた結果です」と高橋は語る。いわば事業主の課題を解決するために発想された、新しいミュージアムのかたちなのだ。

 館内には、施設の軸となる長さ100メートルほどの「アースモール」、「カルチャーモール」と名付けたメインストリートを導入し、大きさも手法も異なる個性的な展示室やライブラリーなどを、モールに面して配置した。来館者はあたかもショッピングモールを散策するような感覚で、館内を見て回ることになる。

「博物館によくある強制的な動線ではないために、ある意味では、不親切なミュージアムかもしれません。ですが、“見落としたものがあるかもしれない”という思いが“また来よう”という意志につながる。もともとの展示素材が豊富にあるぶん、行くたびに発見がある、深みと広がりを持ったミュージアムを作りたかったのです」