ハーバードビジネススクールで「テッセイ」の事例が大絶賛されているという。テッセイとはJR東日本テクノハートTESSEIのこと。授業で紹介されているのは、あの「新幹線お掃除劇場」が誕生するまでの物語だ。
美しい制服や衣装に身をつつんだ清掃スタッフたちが、驚異的な早さで新幹線を清掃する模様は、「7分間の奇跡」として海外メディアでも大きく取り上げられた。
なぜイーサン・バーンスタイン助教授とライアン・ビュエル助教授は、この事例をハーバードで教えたいと思ったのか。
『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書、1月16日発売)にも掲載した両教授のインタビューを3回にわたってお伝えする。中編では主に新幹線劇場の立役者である矢部輝夫さんの卓越した現場力について紹介する。
(聞き手/佐藤智恵 インタビュー〈電話〉は2015年11月18日)
>>(1)から読む
決め手は現場とリーダーの距離感
Ethan S. Bernstein
ハーバードビジネススクール助教授。専門はリーダーシップと組織行動。MBAプログラムにて必修科目「リーダーシップと組織行動」、PhDプログラムにて「フィールド調査の技術」を教える。組織におけるリーダーシップ、コラボレーション、チームワーク、デザイン・シンキング、組織学習を専門に研究。1996年米アーモスト大学在学時、交換留学生として同志社大学に留学したのを機に、日本に強い関心を持つ。2004年から2005年までボストンコンサルティンググループ東京オフィスに赴任し、プロジェクトリーダーを務めた。最新の執筆ケースに“Trouble at Tessei” (Harvard Business School Case 615-044, January 2015)がある。
佐藤 ハーバードのケースと言えば、大企業のCEOなど、いわゆる地位の高い人が主人公になっていることが多いですが、新幹線お掃除劇場をテーマにした教材『テッセイのトラブル』(“Trouble at Tessei” )は、当時、取締役経営企画部長だった矢部輝夫さんだけではなく、従業員の方々も主役として描かれているような印象を受けました。これほど現場感満載のケースも珍しいのではないでしょうか。
バーンスタイン 私は、もともと普通の従業員の方々を主役にしたケースを書くのが好きなのです。結局のところ偉業は、そうした人々の力で成し遂げられるわけですから。
私の理解では、上司が部下を管理し、部下は言われたことを実施する、という時代は終わりつつあると思います。今は、「上司と部下がともにアイデアを出し合い、実行する」時代です。だからこそ、オペレーションの現場がどのようになっているかを詳しく説明する必要があると考えました。