圏外の地

『ライジング・ドラゴン』で火山を撮るために、バヌアツに行った。この映画がなかったら、その国があることすら知らない人もいるのではないか。そこは生活環境が悪いことで有名だったから、覚悟して行った。

ジャッキー・チェン
香港を代表する映画俳優/監督。1954年香港生れ。7歳から10年間、中国戯劇学院にて京劇を学ぶ。1978年に主演した香港映画『酔拳』が大ヒットとなり日本でもジャッキー・チェンの名が知れ渡る。その後、1980年代からはハリウッドに進出し『プロジェクトA』『ポリス・ストーリー』と主演作が立て続けに大ヒットを記録。世界的な大スターの座を築き現在に至る。アクションとコメディを両立させた作風には熱狂的なファンが多い。最新の自伝『永遠の少年』が絶賛発売中!

 着くと、ほとんど5分か10分おきに、小さな地鳴りのような音が聞こえる。ゴーゴーとよく響く音だ。町は一面、火山灰に覆われている。現地の人に、噴火したのはいつかと聞くと、10年前に一度、大きな噴火があったと言う。

 泊まったホテルは、オーストラリア人が経営するところで、レストランもバーもあるが、ホテル全体で28部屋しかない。自分の部屋に入ると、扇風機が置いてあったから、悪くないな、と思った。荷物を置いて、レストランに行くと、みんな居て、撮影の話をがやがやとしている。何てことだ、自分は夢でも見ているのか、と思った。何十人もいっしょにレストランにいながら、ケータイを見ている者が1人もいなかったからだ。なんと誰もが仕事の話をしている。

 それを見ると、上機嫌になり、座って、ケータイを取りだしてメールをしようとした。すると、その数十人が一斉に、

「圏外なんですよ……」

と言ってきた。それでようやく分かった。だからか!