現代人の問題
いままでは、ホテルに着くなり、誰もがすぐに部屋に行っては、パソコンなりケータイなりを抱えて、しばらく忙しそうにするものだ。今回は、遊ぶものがないから、レストランに集まってきたわけだ。そう思って、また嬉しくなった。最近はみんながこうして集まって、コミュニケーションをとる機会がどんどん減っている。これは現代を生きるすべての人にとって、深刻な問題だ。
晩飯を食うと、散歩するために、ホテルから出た。あたりには何もなく、真っ暗だ。顔を上げれば、銀河が見える。懐中電灯を持って自分の部屋に戻った。廊下も真っ暗で、照明がない。手にはペンを持っていたが、うっかり落としてしまい、懐中電灯の明かりを頼って、探してみたが、どうしても見つからなかった。急に、後ろから肩を叩かれ、このペン、落ちてましたよ、と渡してくれた。
振り向くと、初めは人が見えなかった。バヌアツ人は肌が黒い。しばらくして、目が慣れると、ホテルの従業員だと分かった。不可解なことは、廊下があんな真っ暗だったのに、どうやってそのペンを見つけたんだ? 後になって知ったが、バヌアツ人の眼は、ふつうの人間の何倍もいいらしい。その環境で長く生活しているから、暗闇の中でも、はっきりとものが見えるようだ。
そこには10日間滞在したが、現地の人で眼鏡をかけた人を1人も見なかった。
真に豊かな生活
君は、彼らのことを貧しいと思うかもしれないが、実際は、彼らの生活は楽しい。彼らの交通手段は、その足だ。靴すら履かない。車に乗っていると、道中で見かける人は誰もが歩いている。道路も舗装されていないから、歩きづらく、ホテルから現場まで、車でも1時間以上はかかる。オフロード車に乗ったとしても、ゆっくりとしか走れないから、向こうの人の裸足のほうが速い。午後になれば、現場にどんどん人が集まってくる。全員、歩いて撮影を見に来た現地の人たちだ。
バヌアツは海洋性気候だから、天気が変わりやすく、日が出ていても、すぐにどしゃ降りになったりする。大きな空き地で撮影していたが、雨が降ってきても、現地の人は雨宿りなどせず、雨に濡れながら見ている。彼らは、雲を見て、いつ雨が降るか、いつ晴れるかを判断できる。自然と身についた知恵だ。
どの人も、足の指が太く、足が大きい。基本的には靴を履かない。大人でも子どもでも、いつも鉈(なた)を持っている。武器ではなく、歩くときに、邪魔な木の枝とかを切り落とすためだ。物々交換にも使える。大きな鉈は、食いものか、服に換えられる。車の中から外を眺めていると、彼らが歩いているのが見える。歩き疲れると立ち止まって、道端にうずたかく積んである椰子から1つを選んでは、鉈でぱっと2つに割り、まず汁を飲んでから、果肉を食い、食い終わると、また歩き出す。
島一つで人口は1万5000人、みんながみんなを知っている。彼らを見ていると、心から羨ましいと思う。これこそが、この世の楽園だ。
(続く)