今回ご紹介するのは、ソニー・ミュージックエンタテインメント元社長の丸山茂雄氏による『往生際』です。音楽業界にももちろん触れますが、ほかの経営者の伝記には通常見られない、重要なテーマが含まれています。その魅力をちょっとだけ紹介します。
最初は音楽のシロウトだった丸山氏
著者の丸山茂雄さんは、レコード会社の経営者として勇名をはせた人物です。1941年生まれ。68年に設立されたばかりのCBSソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント=SME)へ公募で入社し、78年にはEPICソニーを設立、92年にSME副社長、98年には社長へ就任します。1期2年で退任し、音楽配信会社を独自に設立します。本書は経営者の自伝であると同時に、もうひとつ重要なテーマを持っていますが、それは最後に。
CBSソニー設立時の専務が大賀典雄(1930-2011)さんでした。大賀さんは2年後に社長、82年にはソニー本体の社長となります。もともと東京芸術大学出身の声楽家でした。丸山さんは入社前、読売広告社で営業マンだったそうで、音楽にはシロウトです。
ソフトビジネスというのは、最初はシロウトに一生懸命やらせてうろうろさせといて、途中からプロを入れるとうまくいくっていうことを覚えたわけよ、大賀典雄さんとか小澤敏雄さんっていう、創業者ふたりが(笑)。プロが手慣れたことを感動なしにやるよりも、シロウトが血相変えて非効率的に動き回るほうが、はるかに感動的な仕事をするっていうことに気づいた。「おお、こういうふうにやるとうまくいくんだ」って。そうなると、それの繰り返しだよね。何か新しいことをやるたびにそれだもの、たまらないよね、社員は。めちゃくちゃ乱暴だよな。でも、まだ高度経済成長期のまっただ中だったから、そういう無駄がゆるされる時代だったんだよね。(93ページ)
ここに登場する小澤敏雄さんは大賀さんの右腕として活躍した経営者で、大賀さんの後、80年から92年まで社長でした。