独フォルクスワーゲンとの提携解消後、次なる提携先が注目されていたスズキがトヨタ自動車と提携交渉していることが各紙の紙面をにぎわせた。トヨタ傘下のダイハツ工業も巻き込んだ、業界大再編の深層を読み解く。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)
報道が事実なら、意外に早く動き出したという印象だ。1月27日付の「日本経済新聞」は、トヨタ自動車とスズキが提携交渉に入ったと報じた。複数のメディアも追随した。
本誌2015年10月10日号の特集「トヨタvsフォルクスワーゲン」で報じた通り、両社の将来の提携の可能性は高いと本誌は見立てていた。スズキは米ゼネラルモーターズ(GM)や独フォルクスワーゲン(VW)と提携する以前、危機に見舞われた際に2度もトヨタに支援を請い、救済された歴史を持つからだ。
しかも、2度目の支援の際に当時のトヨタ5代目社長、豊田英二氏に救済を請うたのは、スズキの現会長である鈴木修氏その人だ。トヨタ8代目社長の奧田碩氏とは軽自動車枠をめぐる攻防で因縁の仲にあったものの、現社長の豊田章男氏に“大政奉還”が果たされて以降は、「修会長は、トヨタが創業家の豊田家に戻ったと認識している」(スズキ関係者)という。
VWとの“泥仕合”を終えて提携を解消した後、環境・安全技術など次世代車の開発が単独では厳しいとみられていたスズキは、次こそは慎重に提携相手を模索すると思われた。ただ、恩のある豊田家に対してなら3度目の救済を請うとしても違和感はなかった。
トヨタとスズキは今回の報道を受けて、「そのような事実はありません」(トヨタ)、「提携交渉に入ったという事実はありません」(スズキ)とすぐさま適時開示をして否定したが、少なくとも本誌は修会長が章男社長の父、豊田章一郎・トヨタ名誉会長と接触しているとの情報を入手している。章一郎名誉会長は少し年下の修会長のことを、独特の遠州訛りで「修くん」と呼ぶ仲である。
トヨタの最大の狙いは、やはり世界4位の巨大市場に浮上しつつあるインドだろう。自前では鳴かず飛ばずだった「エティオス」で失敗して以降、シェア約5%と苦戦し続けている市場であり、ここで主戦場となる平均価格60万円の軽サイズは「トヨタバッジではやらないとトヨタは決めている」(自動車業界関係者)からだ。
片やスズキはインドでは、シェア5割弱を持つ盟主として君臨している。トヨタにしてみれば、スズキと組めば弱点の一つであるインド克服の足掛かりができる。
株式市場もこうしたシナジーを見越してか、両社の提携話を好感。27日のスズキ株は一時、前日比515円(16%)高の3739円、トヨタ株も281円(4%)高の6910円まで急反発した。