鋼材価格をめぐり、鉄鋼メーカーと造船各社の交渉が難航している。鉄鉱石と原料炭の価格高騰により、国内鉄鋼業界が負担するコストは年間2兆円の増加が見込まれる。鉄鋼メーカーはその大半を鋼材価格に転嫁する構えだが、造船各社は経営環境の厳しさを理由に猛反発。海外鋼材の本格検討に乗り出す企業も出始めた。

 造船大手の三井造船。1917年に三井物産造船部として発足した三井グループの名門企業が、経営の舵を大きく切ろうとしている。海外鋼材の導入を本格的に検討し始めたのだ。すでに今年1月には韓国のポスコからサンプル製品を受け取っており、品質に問題がないことを確認ずみ。「韓国の鋼材を順次、使っていく方針」(永田憲夫・三井造船常務)という。

 2008年秋のリーマンショック以降、ウォンの対円レートが大幅に下落。競争力が増した韓国鉄鋼メーカーは、日本企業へのアプローチを始めた。ポスコは昨夏頃から造船会社に売り込みをかけており、現代製鉄も最近、動き出した模様だ。

「中国や韓国の鋼材品質は向上している。もはや“Buy Japanese(国産鋼材の購入)”にこだわる必要はない」(大手造船会社首脳)

 水面下で動き出した日本メーカーの“国産鋼材離れ”。

 林田英治・鉄鋼連盟会長(JFEスチール社長)は6月22日の定例会見で、鋼材価格の値上げ交渉について、「時間はかかったが、(原料コスト増加分の)ほぼ全額を顧客に転嫁することで理解してもらいつつある」との認識を示した。しかし現実は違うようだ。

 特に造船業界からは「交渉の緒に就いたばかり。要求はとうてい受け入れられない」(造船大手)と反発する声が上がっている。

 つばぜり合いの発端は今年4月にさかのぼる。資源大手が鉄鋼メーカーに対し、原料価格の大幅値上げを要求。昨年度には1トン当たり60ドルだった鉄鉱石は今年7~9月に147ドル、原料炭は129ドルから225ドルへと跳ね上がった。現在の価格水準が続けば、国内鉄鋼業界が負担するコストは年間で約2兆円増える見込みだ。

 そこで鉄鋼メーカーは、鋼材1トン当たり1万5000~2万5000円の値上げを提示し、自動車、造船などの大口顧客と交渉を続けてきた。トヨタ自動車と新日本製鐵は6月、4~9月の鋼材価格を1トン当たり1万9000円強値上げすることで妥結した。