日本銀行が異次元金融緩和を導入して以降、銀行界は超低金利による収益悪化に苦悩してきた。そこへまた投入されたマイナス金利という“劇薬”は、弱った銀行の息の根を止めかねない。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子、鈴木崇久)
1月29日12時38分、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」導入決定──。
“情報機関”としての一面も持つ各地方銀行の東京事務所では、本店からの情報収集を命じる電話が一斉に鳴り響いた。しかし、日本銀行の黒田東彦総裁が繰り出した奇策に右往左往するばかりだった。
15時30分、金融政策決定会合後の会見が始まると、銀行関係者は黒田総裁を映す画面にかじりついた。その一人だったあるメガバンクの市場部門担当者は、「この1月で過去数年にわたって続いた相場のルールが激変した」と感じていた。中国経済の失速と原油価格の下落が重なり、年初からマーケットは波乱の幕開けを迎えていた。そこにマイナス金利政策がだめ押しで加わったからだ。
16時35分すぎ、黒田総裁の会見が終了すると、ある大手銀行の本店では経営企画部門と市場部門による緊急会議が開かれた。
その大手銀行では、すでに2016年度の業績計画値を組み立てており、資金運用先の一つとして0.1%の金利が付く日銀当座預金の残高を増やす予定だった。
ところが、黒田総裁の説明によれば、その日銀当座預金はこれから三つに分類され、今後積み上がる残高部分に対しては日銀が0.1%のマイナス金利を課すという。となれば、預けた資金が逆に目減りしてしまうことになる。
そこで、緊急会議では日銀当座預金残高の増額予定分の“避難先”を議論。融資や国債、リスク性の有価証券など、他の運用先に振り向けた場合のリスクとリターンをシミュレーションしたのだ。
ただし、議論はそこまで。現段階において、日本では前代未聞となるマイナス金利政策の影響度合いやその波及ルートについて、多くの銀行が測りかねている。
転換点は2月中旬に訪れそうだ。2月16日にはマイナス金利政策が適用開始。さらに、17、18日には金融当局と地銀・第二地銀の頭取が議論を交わす例会がある。そして、今回はその場に日銀の企画局長がやって来て、マイナス金利政策導入の背景を説明するという。
「そこが銀行界におけるマイナス金利対応のスタートライン」(大手銀行幹部)という状況だ。