なぜ、組み合わせるようになったのか

「創業してから38年。料理するのはわたしだけです」

 説明するのは主人兼調理人の佐藤秀雄(68歳)である。

「始めた頃は高級割烹でした。周りの店のランチが400円、500円だった頃、うちは650円で出してましたから。よそよりも高かったんです。メニューも刺身、天ぷら、うなぎ、煮もの。刺身も白身はヒラメと鯛。それで結構、流行っていたんです。ただ、昼間のランチが圧倒的な人気でね。おかずを2品も3品も付けていたから、夜もそれを食べたいというお客さんがいたんです」

 佐藤は黙々と働いた。昼は食べる客、夜は酒を飲む客を相手にした。

 ここから話はぐっと時事的になる。佐藤の言葉遣いが変わった。

「フセインだね、ターニングポイントは。あいつがクウェートに侵攻した(1990年)頃から景気が悪くなって、夜のお客さんが減ったんだよ。ちょうどバブルが崩壊した頃でね。なんとか夜のお客さんを増やさなきゃいけないなと思ったんだ。それで、思いついたのが、夜も昼と同じメニューにすればいいってこと。昼はいつも満員だったのだから」

 それでスタートしたのが組み合わせ定食を出すことだった。

「おかげさまで夜も満席になりました。ただ、夜のお客さんで酒を飲む人はほとんどいなくなった。せいぜいビール1本、もしくはお銚子1本だけですね。あと、これだけの品数を作っているでしょう。仕込みが大変だよ。メンチだって、あいびき、玉ねぎを練って、塩、こしょうして作っている。他の品物も全部、手作りだ。朝から晩まで働いて30年以上。風邪をひくのは10年に一回だけ。身体が丈夫だから、やってこられたんだと思う」 

「しのだ煮」は料理人のプライド

 そんな佐藤にとって、思い入れのあるメニューがひとつある。

「しのだ煮。普通の定食屋ではやってないよ。うちは定食屋だけれど、定食屋では置いていないような手のかかる料理を出すことが大切なんじゃないかな」

 しのだ煮とは油揚げを使う煮ものだ。ゆずのそれは油揚げ、豆腐、季節の野菜を煮たもの。つねに出しているわけではないので、常連のなかでも通だけが注文する。

 佐藤は嘆息して、つぶやいた。

「しのだ煮を出すのはオレのプライドだね。オレは割烹で修業したちゃんとした料理人なんだということを時々、自分自身に思い出させるためにもこれだけは作るようにしている」

 ゆずへ行ったら、好きなものを注文すればいい。えびフライとメンチカツの組み合わせはボリュームがある。ご飯がどんどん食べられる。

 あじ刺身と豚肉サラダの組み合わせも悪くない。あじ刺しで日本酒を飲み、豚肉サラダではビールを楽しむことができる。その場合、ご飯のおかずは味噌汁とおしんこだ。

 そうして、しのだ煮があったら、迷わず頼んでほしい。撮影日には残念ながら、しのだ煮は無かったが、荻窪で長く続く定食屋の主人にとっては看板料理だ。佐藤秀雄のプライドは、しのだ煮のなかにある。 


「ゆず」

◆住所
東京都杉並区荻窪4-21-18 荻窪スカイハイツ102
※荻窪駅から徒歩4分
◆電話
03-3393-3081
◆営業時間
11:00~14:30、17:00~21:30
無休(日曜は昼のみ)