前回は電車やバスの中で本を読む方法を書いた。しかし、乗り物ではどうしても読めない人もいる。そこで、自宅やオフィス以外の読書空間を紹介しよう。直感的には図書館が最適と考えがちだが、図書館よりも読書に向いている場所がある。

セルフサービスのカフェより旧型の喫茶店

 手元の数冊の本を読んだり、原稿やノートを書いたりするための場所としては通勤通学経路上の喫茶店が20年前までは主流だったが、居心地のいい伝統的な喫茶店は激減し、客をぎっしり押し込めるセルフサービスのカフェばかりになってしまった。こうしたカフェは椅子などの調度類が小さくて硬く、長時間の滞在は無理だ。人の出入りも激しいし、尻が痛くなる。テーブルも小さいので使い勝手はよくない。

 しかし、街に一つか二つ、読書に向いた喫茶店は必ずある。チェーン店では各地にある「ルノアール」系の店は、おおむね椅子の座り心地がよい。パソコンを操作するにはテーブルが小さいが、読書とメモだけだったら使える。

JR渋谷駅新南口改札を出てすぐの「渋谷珈琲研究所」

 私の通勤経路では、渋谷駅埼京線ビルの改札外にある「渋谷珈琲研究所」と西船橋駅ビルの「西船珈琲研究所」が気に入っている。伝統的な喫茶店の形状に近く、照明も明るすぎず暗すぎず、適度だ。BGMもほとんどなくて快適。BGMは読書にはじゃまで、話し声などのノイズはぜんぜん気にならない。全体の空間がゆったりとしていて本を読みやすい。テーブルは小さくて不安定なのでここでも読むだけだが。

 JR東日本の関連会社が運営していると思われるが、渋谷駅と西船橋駅以外にはなさそうだ。西船橋は正規の通勤経路からだいぶ外れているが、例によって(第1回参照)適当に経路を動かして行く。

 東京では神田神保町に伝統的な喫茶店は生き残っているが、本当に減ってしまった。ちなみに、「全国の喫茶店事業所数の推移」(全日本コーヒー協会)によると、私が大学生のころの1975年には9万2137ヵ所もあった。81年の15万4630ヵ所をピークに減少し、2012年には7万0454ヵ所と、81年の46%まで減少していた(「喫茶店」にはカフェや漫画喫茶まで含まれている)。

 人口1000人当たりの喫茶店数を都道府県別にランキングすると(総務省統計局、2012年)、1.高知県、2.岐阜県、3.愛知県、4.大阪府、5.和歌山県 6.兵庫県、7.香川県、8.京都府、9.三重県、10.福井県・愛媛県、という順で、愛知県以西、四国、関西に集中している。首都圏以外では人口比でみるとまだたくさんある。経験上、たしかに名古屋、大阪、神戸、京都では懐かしくて泣きそうになる喫茶店に出合うことが多い。