「早く成長したい」、「少しでも歯ごたえのある仕事をしたい」という若手の気持ちは貴重です。一方、会社サイドが「早く育って欲しい」と考えることも無理からぬことです。しかし、双方の「早さ」に対する解釈がくい違っていては、お互いに幻滅してしまいかねません。
ひところ、企業側が「即戦力」を採用したいと強調していたことがありました。「早期戦力化」を打ち出す企業や人事もあります。
言葉通りの「即戦力」を求めるのであれば、それは中途採用という手段をとるべきでしょう。新卒新人が「即戦力」であるはずがないからです。新卒新人が戦力になるためには、一定の時間がかかりますし、練られた成長プログラムや、適正な経験の提供が不可欠です。
「自ら考える習慣をつける」ことが
最初の1年の課題
人材育成には一定の時間がかかる、ということが確かだとしても、「そんなに悠長なことは言っていられない」という組織の現実もあるでしょう。では、一定の時間というのを、どのぐらいに見積もっておけばいいのでしょうか。
私たちが若手の成長支援を事業化するにあたり、背景としているものとして「経験学習理論」、「熟達化理論」があります。これはビジネスに限らず、エキスパートになるためには10年かかるという定説です。
エキスパートになるための最初のステップを「一人前レベル」として、それにはどのぐらいの時間がかかるのかを、私たちは松尾睦・神戸大学大学院教授などの研究者と共同調査しました。その結果、3年から5年で一人前になる、ということがわかりました。ここでいう一人前とは、一通りの実務がこなせる、自分が業務を通じて身につけたスキルを他者(後輩など)に伝えることができる、と定義しています。
一人前になるには少なくとも3年かかるから、入社3年以内に会社を辞めるのは得策ではない、と揺れる若手に私たちは言っています。
しかも、このことは、3年から5年すれば誰でも自動的に一人前レベルになれる、ということ意味していません。考えられたトレーニングを受け、自分の能力より少し上のストレッチした経験を経ることで一人前レベルになる、ということが知見として明らかになっています。
だからこそ、少なくとも3年目までの業務経験を設定して、ある程度スケジュール化された育成プログラムが必要なのである、と私たちは考えているのです。
ここでいう育成プログラムとは、いわゆる研修のことだけではありません。むしろ、日常の業務経験を、成長を想定してプログラムすることが中心になるべきではないか、と考えています。