「大成功した起業家」といえば「孤高の天才」というイメージを持つ人は多いだろう。しかし、世界的コンサルティングファームのPwCがビリオネア(10億ドル保有者)を調査したところ、自分とは正反対の人と組んで起業した会社のほうが、1人で起業した会社よりも成功しやすいということがわかった。
「ビリオネア=孤高の天才」ではない
ビリオネアには孤高の天才のイメージがつきまとう。カリスマ的人物がずば抜けた才能で事業を成功に導く、というストーリーがわかりやすくて魅力的だからだろう。
ところが実際のデータを見ると、ビリオネアはけっして孤独ではない。孤高の天才のように見えるビリオネアの陰には、かならず実務に長けた相棒が存在している。
多様なものを組み合わせてひとつの大きなアイデアをつくりあげる人がいれば、大きなアイデアを細部に分解して実行可能な単位に落としこむ人がいる。ビジネスを成功させるためには、その両方の才能が不可欠だ。
ビリオネアは自分の対極にある人と組むことで、足りない能力を補完する。そうすることで互いの強みを生かしながら、1人では成し得なかったほどの大きな仕事を実現するのだ。
ホームレスから一転
ビリオネアになった男
ジョン・ポール・デジョリアは、いいアイデアをすばらしいビジネスに進化させる才能の持ち主だ。デジョリアは高級ヘアケア製品のジョンポールミッチェルシステムズ社と、高級テキーラのパトロン・スピリッツ社の創業者。ロサンゼルスで生まれ育ち、1970年代にヘアケア製品のレッドケン社でトップ営業として活躍した。
そのほかにも美容系の会社を2社渡り歩いたが、いずれも行き着く先は同じだった。解雇されたのだ。解雇の理由はあまりに成績がよすぎて、会社のオーナーより高い給料を稼ぐようになったからだとも言われている。
1970年代末までにデジョリアは仕事をやめて、友人のポール・ミッチェルとともに高級ヘアケア製品会社ジョンポールミッチェルシステムズ社を立ち上げる準備をしていた。開業資金として、外部の投資家から50万ドルが入ってくることになっていた。
ところが土壇場で投資家に逃げられ、デジョリアは無職のホームレスになってしまった。幼い息子と一緒に、路上に停めた車のなかで生活していたという。パートナーのポール・ミッチェルも似たような状況だった。
ミッチェルはもともとロンドンで活躍していた美容師で、ヴィダル・サスーンの後継者とも言われていた。だが時代が変わり、彼もデジョリアと同じく苦汁をなめることになった。
700ドルを元手に
再起に成功したデジョリアとミッチェル
新たな方向性を求めていたデジョリアとミッチェルは意気投合し、2人で画期的なヘアケア製品を開発することにした。一度洗いで髪がまとまるサロン向け高級シャンプーだ(当時のシャンプーは二度洗いが基本で、そのあとスタイリング剤を兼ねたコンディショナーを染みこませる必要があった)。
彼らの開発したシャンプーは高品質でありながら、ヘアスタイリストの手間とお金を省いてくれた。それまでの半分の量でそれまで以上の仕上がりが得られたからだ。
最初の投資家に逃げられたデジョリアとミッチェルは、たった700ドルの借金を元手に事業を立ち上げた。それでも2人のチームワークで、業績はどんどん伸びていった。
「ポールには経営の知識がなく、私には美容師の技術がありませんでした」
デジョリアはテキサス州の自宅で我々にそう語った。
「彼はすぐれたスタイリストで、私は営業やマーケティングの出身。経験している分野が全然違ったわけです」
2人の役割分担はうまくいった。ミッチェルは技術を生かして、サロンでシャンプーの効果を実演してみせた。デジョリアはサロン専用の高級シャンプーというビジネスモデルをつくり、さらにシャンプーをサロンの顧客に売るためのテクニックをオーナーたちに指南した。
初期の顧客がついたのはミッチェルの知名度とスキルのおかげだったし、ビジネスが継続的に利益を生んだのはデジョリアのアイデアと実行力のおかげだった。
対照的な2人のコラボレーションが、大きな化学反応を生みだしたのだ。
2人以上で創業した会社は
1人のときよりも成功しやすい
デジョリアとミッチェルのように、自分にないものを求めてパートナーを組む例は非常に多い。スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックのペアはあまりにも有名だろう。
そのほかにもナイキ社のビル・バウワーマンとフィル・ナイト、ザラ社のアマンシオ・オルテガとロサリーア・メラなど、対照的な人が組んで会社を成功させた例は枚挙にいとまがない。
数々の研究もこのことを実証している。古くは1990年代に実施された調査で、2人以上のチームで創業した会社は、創業者が1人だけの会社よりも成功しやすいという傾向が示された。
「冥界の果物」を
美と健康の象徴に押し上げたビリオネア
我々が調査したビリオネアたちも、大半が対照的なタイプの人間と長期的なパートナーシップを結んでいる。
ザ・ワンダフル・カンパニー社の共同創業者リンダ・レズニックとスチュアート・レズニック夫妻は、対照的なパートナーシップがうまく実を結んだ好例だ。
ワンダフル社は100%ザクロジュースのPOMや、プレミアム天然水のフィジーウォーターで有名な企業。リンダの独創的なセンスとスチュアートの冷静な判断力で、さまざまなアイデアをヒットさせてきた。
ザクロジュースをつくろうと思ったきっかけは、別の事業でたまたま100エーカーのザクロ畑を手に入れたことだった。カリフォルニアの広大なピスタチオ農園を購入したとき、その一部にザクロ畑が含まれていたのだ。
リンダはこれをうまく商品にできないかと考え、商品開発チームと一緒にザクロの果肉をジュースにする方法を研究した。当時はザクロのジュースなどアメリカには皆無だったので、見慣れぬ商品を買ってもらうための戦略も考えなくてはならなかった。
アメリカ人にとってザクロといえば、ギリシャ神話で女神ペルセポネーが冥界の王ハーデースに食べさせられた果物。冥界の暗いイメージを一転させて美と健康の象徴に押し上げたのだから、リンダのマーケティングセンスは相当なものだ。
もちろん夫であるスチュアートの貢献も大きかった。世界的企業にまで成長できたのは、スチュアートの的確な経営判断のおかげだ。
「利益を確保するのは彼の役目なんです」とリンダが言うとおり、スチュアートは経営と財務を一手に引き受けてきた。リンダがボトルの色や形に頭を悩ませているあいだ、スチュワートはそのボトルをどうやって流通させ、利益につなげるかを考えていた。
クリエイティブなリンダと、切れ者のスチュアート。2人の能力が補完しあって、ワンダフル社の爆発的な成功が可能になったのだ。
(※この原稿は書籍『10億ドルを自力で稼いだ人は何を考え、どう行動し、誰と仕事をしているのか』の第6章から一部を抜粋して掲載しています)