いまでこそグローバル企業の代表格と評されるプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)だが、同社も1990年代までは地域ごとにオペレーションの異なるパッチワーク組織であり、キャッシュ・マネジメントも例外ではなかった。しかし現在は、グローバル・キャッシュ・マネジメント(GCM)のベスト・プラクティス企業であり、高度な財務マネジメント力を背景に経営や事業における戦略・戦術の自由度を広げ、企業価値も右肩上がりで成長している。P&Gをはじめ、先進的なグローバル企業は、GCMを3段階、すなわち「効率化の1.0」「守りの2.0」、そして「攻めの3.0」という具合に進化させてきた。一方で、多くの日本企業は1.0に留まっており、グローバル経営の最適化に向け2.0、さらには3.0への進化に取り組むべき時期が来ている。

P&Gに見る
GCMの発展3段階

 プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、大統領選挙の行方を占うオハイオ州のシンシナティに本社を構え、世界180カ国で事業展開しているグローバル・マーケターである。売上高9兆円超、利益1兆4000億円、従業員数11万8000人(いずれも2015年度実績)というこの巨大企業は、現在ではグローバル企業の代表選手として名高い。

山岡正房
EYアドバイザリーのディレクター。アメリカ・ソフトウェア・ベンダー、外資系コンサルティング会社を経て現職。現在、ファイナンス・トランスフォーメーション・サービスのサブリーダーとして、主にグループ経営における統治機構や管理方法の変革、決算の早期化などの経理・財務業務の改革、IFRS導入の支援に従事。GCMに関しては、大手総合商社におけるキャッシュ・プーリング、インハウス・バンキングのプロセス・システム改革の支援などの実績を有する。

 しかしながら同社も1990年代までは、国や地域によって、人事や業績評価制度、業務オペレーションなどが異なる部分最適の集合体であり、キャッシュ・マネジメントに関しても例外ではなかった。

 キャッシュ・マネジメントの基本は、現金や有利子負債の可視化にある。どこの国のどの銀行口座に、どの通貨でいくらの資金があるのか。その内訳(現金、定期預金、短期金融商品等)はどうなっており、すぐに動かせる資金はどの程度なのか。また外部借入がいくらあり、その金利条件はどのようなものか。こうした情報を、月末の断面ではなく即時に、グループ全体で一元的に把握することにある。

 ところが、国や地域でオペレーションが分断されている状態では、こうした一元的な把握が難しくなる。そのため、グループ全体で資金を融通し有利子負債を最適化することも、海外送金等の取引を効率化することもできず、結果として、せっかく事業で稼ぎ出した利益を、利息や手数料の支払いで目減りさせてしまう。

 また、運転資金の調達や為替取引などを拠点ごとに個別対応していては、グループ全体のリスクを適時・適正に把握できず、効率的・効果的なヘッジもできない。
 さらには、M&A、設備更新、R&D、マーケティング、採用など、さまざまな投資決定に際しても、グループ全体の資金状況やリスク許容度の観点から機動的な判断を行えず、経営や戦略の自由度を狭めてしまうことにもなりかねない。

 そして、こうした負の影響は、事業や組織がグローバルに広がれば広がるほど、大きくなっていく。

 そこでP&Gでは、まずは全世界のキャッシュの所在を本社側からリアルタイムで可視化することから着手した。そのうえで、インハウス・バンキングやキャッシュ・プーリング、サプライヤー向けのサプライチェーン・ファイナンス、債権と債務をグループ内で相殺するネッテイングなどの手法を導入して、有利子負債の最適化や支払手数料の削減に努めた。こうした取り組みは「グローバル・キャッシュ・マネジメント(GCM)1.0(注1)」に相当する(図表1「GCMの発展3段階」を参照)。


注1)欧米では、キャッシュだけでなく、より広範な対象を意味するトレジャリー・マネジメント(TRM)という呼称が一般的である。