個人攻撃をせよと主張するつもりはない。刑事事件における被告人に対しての精神鑑定は、そもそもどの程度の精度があるものなのか、どのように検証されるべきものなのか、何が問題で何を改善すべきなのか、その議論をもっとすべきだと思うのだ。

 この8月(もしかしたら9月)、僕は1冊の本を上梓する。2004年から2007年にかけて、『月刊PLAYBOY』(集英社インターナショナル)で連載した『A3』をまとめた1冊だ。麻原彰晃への新しい視点を考察することを目的としたこの連載は、本来なら連載終了後の2008年には刊行されるはずだった。でも大幅に遅れた。

 相当に推敲した。加筆もかなりした。ただし刊行が遅れた理由はそれだけじゃない。僕が怠慢だからだ。これは大きい。他にもある。推敲しようと原稿を読むたびに、冷静ではいられなくなるからだ。

 麻原の法廷は一審だけで終了した。つまり死刑があっさりと確定した。その要因の一つは、一審終了後に裁判所の要請で作成された麻原の精神鑑定書だ。

 これがひどい。話にならない。ひどいとか話にならないとか、使うべき語彙としてはあまりに情緒的過ぎると自分でも思うけれど、でも読み返すたびにそう思う。何かの冗談かと思いたくなるような鑑定書だ。だから冷静でいられなくなる。

 結果的にはこの鑑定によって、刑事被告人である麻原彰晃の意識活動は正常であると見なされて、一審の死刑判決が確定した。つまり、日本の戦後史における最大の事件と称されたオウム真理教事件の首謀者である(とされる)人物の法廷は、二審もなければ最高裁もなく、一審だけで法廷は終了した。

 ……いきなり書き進めてしまったけれど、特に若い読者には、事情がよくわからないかもしれない。冷静にならなくては。経緯を以下に記す。

 2004年2月、一審で死刑判決を受けた麻原被告の控訴審弁護を引き受けた二審弁護団は、被告とどうしてもコミュニケーションが取れないとして控訴趣意書の提出を断念し、精神鑑定を実施するために公判停止申立書を裁判所に提出した。しかし裁判所から申し立てを却下されたため、弁護団は独自に6人の精神科医に依頼して、麻原被告の精神鑑定を実施した(正式な鑑定ではないため法的効力はない)。

6人の医師が麻原の訴訟能力は
「ない」と判断した

 元北里大学医学部精神科助教授の中島節夫医師は、「器資性脳疾患の疑いが濃厚」との見解を示しながら、「詐病の可能性も否定できないが、詐病と判断するにも正式な精神鑑定が必要だ」と主張した。

 2人目の医師の名前や所属は公表されていないが、彼もまた、「拘禁反応によって昏迷状態にある」として、「訴訟能力はない」と結論づけた。

 3人目は筑波大学大学院人間総合科学研究科の中谷陽二教授。彼もやはり、「拘禁反応が慢性化・固定化している」可能性が高いとして、「訴訟能力は欠如している」状態との意見書を提出した。