Photo by Yoshihisa Wada

「マーケットイン」ではなく「ユーザーイン」で考える

 アイリスオーヤマには二つの大きな信念がある。「常識にとらわれないイノベーション」と「ユーザーインのものづくり」だ。この2つの信念が毎年1000点の新商品開発を生み出す基本にある。

 当社はもともと、「プロダクトアウト」のメーカーだった。競争力のある製品や商品を生み出し、それで市場シェアを取っていく。だが世の中に好不況はつきもので、特に1973年の第1次オイルショックでは特需の後の大不況に見舞われ、79年の第2次オイルショックが追い打ちをかけた。プロダクトアウトではどうにも太刀打ちできないほど徹底的に痛めつけられた。その反省から消費者のニーズに耳を傾けて商品を作る「マーケットイン」という考え方に気づいた。

 消費者の好み(ニーズ)を探り、市場の変化に機敏に対抗策を打つ。だから80年代は消費者一人ひとりを対象とするマーケティング研究が盛んになり、「百貨店経営からブティック(専門店)経営へ」などとも言われた。しかしプロダクトアウトだろうがマーケットインだろうが、市場競争の厳しさに変わりはない。

 そうしたなかで中小企業が生きぬくには、よほどの優位な環境や技術力、経営力を備えていなければならず、大半の中小企業には望むべくもないことだった。

 アイリスオーヤマ(当時は大山ブロー工業所)も中小企業で、生き残りを必死に模索した。結論から言えば、中小企業は競争のない世界でお客さまに喜ばれる商品をつくればいいのである。競争のない世界とはつまり、潜在需要を顕在化すること。「需要創造」だ。

 では需要創造は、どのようになされるのか。これは頭で考えてもできない。そのために「常識にとらわれないイノベーション」と「ユーザーイン」という二つの信念がある。ユーザーインとはつまり、「生活者の困った」「不満」を察知し、「生活者の代弁者」としてささやかなソリューションを提供すること。それでよいのだし、それでなくてはならない。単なる「マーケットイン」より、もっと消費者のニーズに密着した発想になる。

 プラスチック製の養殖用ブイや育苗箱をつくっていた大山ブロー工業所が、現在のアイリスオーヤマへと変身した最大のきっかけは89年のクリア収納ケースの3商品の開発とヒットだった。