東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。『大人のための地学の教室』は、京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝えている。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されている本書。今回、著者である鎌田浩毅氏へのインタビューが実現した。本記事では、地震にまつわるよくある誤解と、正しい知識について聞いた。(取材・構成/小川晶子)
画像はイメージです Photo: Adobe Stock
地震が起きない場所はない
――地震が頻繁に起きる日本に住んでいる私たちは、全体的に災害への意識は高いですが、中途半端な知識で誤解していることもあると思います。地震に関して、よくある誤解とはどのようなものですか?
鎌田浩毅氏(以下、鎌田):最大の誤解は、「自分の住む地域には地震が起きない」と思っていることです。1995年に阪神・淡路大震災が起きましたが、当時、関西には地震が起きないと思われていたんですよ。
有名だった東海地震は警戒されていました。でも、関西にはないと思い込んでいたからみんな驚いたんです。マグニチュード7.3の直下型地震が、住宅が密集する神戸を直撃して6400人を超える方が亡くなりました。
関西は「近畿トライアングル」と言って、活断層の巣です。だから僕たち地震学者はいつ地震がおきてもおかしくないと言い続けていたのですが、残念ながら伝わっていませんでした。
同じように、今は南海トラフ巨大地震が有名だから、みんな南海トラフを心配するでしょう? そして「自分の住む地域には関係ない」と思ってしまう。
すると、たとえば能登半島地震が起きたときに、「地震学者は南海トラフだと言っていたのに!」と言う人がいます。地震学者が南海トラフのことを強調しているのは、もっとも被害が大きいからであって、他の場所では地震が起きないと言っているわけではありません。
日本には活断層が2000本もあるから、どこの都道府県で地震が起きてもおかしくないんです。これは本でも講演会でもテレビでも言っているつもりなのですが、なかなか伝わらないんですよ。
特定の地域の地震情報があると、「そっちは危ないが、うちには関係ない」と思ってしまうんですよね。
――すべての地域で対策はすべきということですね。
鎌田:そうです。それが一番大事です。
東日本大震災以降、活断層が動きやすくなっている
鎌田:それから、2011年の東日本大震災は千年に一回起こるかどうかという、非常にまれな、日本の観測史上最大規模の地震でした。よく「東日本大震災の地震で大きなエネルギーが解放されたので、もうエネルギーは残っていない。したがって当分は地震が来ないのではないか」という質問を受けます。
これも誤解です。むしろ、プレートにたまったエネルギーがこれからも震源域をどんどん広げながら解放される可能性が高くなっています。
――それは何故でしょうか。
鎌田:東日本大震災は、北米プレートに乗っている東日本の地盤のひずみ状態を変えてしまいました。これによって地震発生の形態がかなり変わったのです。
日本列島の内陸部でも、2000以上ある活断層が活発に動き出す懸念が生じています。東日本大震災は、日本海溝で起きました。
海溝とは読んで字のごとく、深くて溝になっているところです。ここで太平洋プレートが北米プレートに沈み込んでいるのです。
深さ1万メートルくらいのところで、太平洋プレートによって引きずり込まれた北米プレートが跳ね返って起きたのが東日本大震災です。跳ね返りが大きすぎて、その跳ね返った大陸プレートが引き延ばされてしまいました。これが地震や火山の噴火を引き起こす原因になるんです。
プレートにしてみると、ずっと押されているストレスがあったのだけれど、そこに急に引っ張られる反対のストレスがかかったわけです。その新しいストレスが、別の地震を引き起こす可能性があるんです。
大陸プレートが引き延ばされた結果、2000本以上ある活断層が不安定になって動きやすくなっています。
――首都直下地震も心配されていますね。
鎌田:日本列島はどこでも直下型の地震が起きる可能性がありますが、特に首都圏は被害が大きいので、防災上、強調して首都直下地震と呼んでいます。
――なるほど。首都直下地震だけでなく、どこも直下型地震が起きやすくなっているのですね。
鎌田:そうなんです。現在は「大地変動の時代」。正しい知識を身につけ、対策していただきたいと思っています。
(本原稿は、鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』に関連した書き下ろしです)
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は115万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。第54回ベストドレッサー賞(学術・文化部門)受賞。









