『告白』『悪人』『モテキ』『バケモノの子』『バクマン。』などを手がけた映画プロデューサーで、初めて書いた小説『世界から猫が消えたなら』が120万部を突破し映画化。2016年も映画『怒り』『何者』など、次々と繰り出される企画が話題を集める川村元気。その背景にあるのは「“苦手を学ぶ”ことで、人間はぎりぎり成長できる」という一貫した姿勢だという。
そんな川村元気が、話題の新刊『理系に学ぶ。』では、「文系はこれから何をしたらいいのか?」をテーマに最先端の理系人15人と、サイエンスとテクノロジーがもたらす世界の変化と未来を語っている。
本連載ではその中から5人との対談をピックアップするが、第8、9回では、「統計学は最強の学問」と唱える日本初の統計家・西内 啓さんにご登場いただく。
統計学は最強の学問なのか?
川村 僕は基本的に勘と経験で仕事をしているんですけど、西内さんの著書でベストセラーになった『統計学が最強の学問である』を読んでみたら、自分のやり方を気持ちいいくらい真っ向から否定された感じがして、面白かったです。もともと子どもの頃から分析的なことが好きだったんでしょうか?
西内 小学校の高学年のとき友達とスーパーファミコンで遊んでいても、気がついたらそこに効率を求めるようになっていました。例えば『ドラクエ』でレベル上げをするときに、風の噂で「山のマップのところと、芝のマップのところで、モンスターの出る確率は違うらしいぞ」と聞くと、実際にどの場所がレベル上げにいいのかを…。
川村 時間を計って確率を出していったんですか?
西内 そうなんです。それが多分、人生で最初の統計解析ですね。
川村 そんな変わった友達、僕の周りにはいなかったです(笑)。でも、なんとなく「山の方がモンスターに会える気がする」と思って感覚的にやっていることを、誰かがカウントして確率で出してくれたら、楽に経験値を上げられますよね。でもそれって意外と面倒くさいので誰もやらない。
西内 僕は喜々として分析結果を友達に教えていましたが(笑)。
川村 そんなゲーム大好き少年が、東大の医学部に行こうと思ったのはなぜですか?
西内 医学部といっても医者になるコースではなくて、生物科学系の勉強をする理科二類という学部に入ったんです。というのも、高校のときに「人間って何だろう」という問いが自分の中ですごく大きくて、脳科学や遺伝子の研究をすればわかるだろうと思っていた。でも、実際に大学に入って片っ端から授業を受けて最先端の話を聞いても、人間のことはほとんどわからなかったですね。
川村 医学では疑問は解決できなかった。
西内 はい。それで目先を変えて文系の心理学や社会学、経済学や経営学を勉強し始めたら、そっちの方が自分の知りたかった人間に迫っていると思ったんです。ただ、一方で当時の自分には、テレビに出てくるような文系の学者は根拠がないことを平気で口にしている印象もありました。だから最初は授業の内容にも懐疑的だったんですけど、よく聞いていくと多くの考えは実験や調査で実証されていて、そこで初めて、答えを導く際に使われている「統計学」というものを意識するようになりました。
川村 「もう、これしかない!」と思ったわけですか?
西内 そうですね。ただ、いざ勉強しようとすると、日本には統計学部とか統計学科がない。工学部に進めば物の品質管理、経済学部に進めばお金の流れに統計学を使ったりはしているんですけど。そこで人間を対象に統計学を教えてくれるところを探したら、医学部だった。医学ってミクロからマクロまで、人間を勉強する世界なんですよね。