採用時に学歴不問をうたう企業は多い一方、「実はこっそり学歴で採用している企業ばかり」との批判の声も少なくない。アルバイトから社長になった吉野家の安部修仁会長に、人材採用、そして入社後の登用に際して学歴をどう考えるべきか、語ってもらった。(構成/フリージャーナリスト・室谷明津子)

採用した後は
学歴・経歴は不問

 リクルートスーツ姿の学生が、街を歩く季節になりました。今年は経団連が選考活動の開始を去年より2ヵ月前倒しにしたため、就職活動は「短期決戦」といわれています。企業側の求人数は落ち着いていますが、求職者の世代で人口減少が進んでいるため、有効求人倍率が24年ぶりの高水準に達したというニュースも流れました。

学歴は「能力をはかる1つのものさし」。受験競争における努力と、吸収力の高さは評価に値すると考える安部会長。一方、入社後は全員が「同じスタートラインに立つ」。もはや年功序列や学歴主義で会社が伸びる時代ではないと語る

 採用担当者は何とかいい人材を確保しようと必死でしょうし、学生の側も「今年なら目指す企業に入れるかも」という希望が膨らんでいる。採用活動の現場では、両者の熱い気持ちがぶつかり合っていることでしょう。

 当社グループは人材の採用・育成に関して、よく「現場主義・学歴無視」と言われます。確かに私自身、福岡の高校を卒業後、プロのミュージシャンを目指して上京し、吉野家でアルバイトをするうちに創業者のオヤジ(故・松田瑞穂氏)の魅力と牛丼のビジネスの面白さにはまっていった、いわゆる“たたき上げ”です。

 社長になったのも日本の経営者としては若い42歳でしたし、「結果を出せば学歴・経歴・年齢不問で登用される」というのは事実です。現在、経営を担う河村泰貴社長は大学中退・アルバイト出身であり、子会社の業績立て直しなどで手腕を発揮した男。傍から見れば、「現場主義・学歴無視」というイメージがさぞかし強いだろうと思います。

 しかしわれわれも、採用の時点で学歴を無視しているわけではありません。というのも、多くの企業で採用担当者が経験している通り、学歴は「能力をはかるものさし」の1つになるからです。

 俗にいう「いい学校」の卒業生は、受験競争における努力と、吸収力の高さで勝ち残ったという見立てのもとで、採用の有力な材料の1つになります。当社グループは人材教育に力を入れていて、入社後は教育投資を費やし勉強の場も大いに提供しますが、そこで知識を身につけ、スキルアップしていく可能性の高い人材を採用したい。そういう採用の期待において、学歴はやはり無視できません。

「吉野家も意外とふつうだな」とがっかりさせたかもしれませんね(笑)。アルバイトから正社員になる人が過半数を占めますが、通常の採用活動はいたってスタンダートです。吉野家の伝統としてあるとしたら、むしろその後。採用してからは全員が「完全に同じスタートラインに立つ」という点です。