個人向けに「フィデューシャリー・
デューティー」を機能させるには?

 しかし、森氏が投資信託販売について、また保険の販売について例示するように、率直に言ってリテール向け(個人向け)の金融ビジネスにあって、フィデューシャリー・デューティーは「建前に過ぎない」のが現状だ。金融マンが悪辣な手数料稼ぎの合間に、自己正当化のために唱える念仏程度の役割だ。

 リテール向け金融ビジネスで、フィデューシャリー・デューティーが実行に移されない理由は何なのか。

 多少なりともフィデューシャリー・デューティーの概念が根付いている年金運用の世界と、リテール向け金融の世界とを比較すると、サービスの受け手側が得る「情報」に差があること、年金運用の世界の方が「競争」が激しいこと、投資家側の「判断力」に差があること、の3点に原因があるように思われる。

 まず、年金運用の世界では、顧客である年金基金が「全てにわたって正確に」ではないものの、運用サービスの「実質的な手数料」を知っている。

 ちなみに、ヘッジファンドのような商品の普及は、年金基金が成功報酬部分を正しく評価できていない(で「カモ」にされている)ことを示唆するが、それ以外の伝統的な運用商品に関しては、年金基金は運用管理手数料がいくらで、その明細がどのようなものであるかを、おおむね知っている。

 しかし、個人の場合、投資信託を選ぶ場合に、運用管理手数料を気にしない場合がしばしばあるし、そもそも複数の中から「選ぶ」のではなく、セールスマンに勧められた商品だけを受動的に「検討する」状況に追い込まれていることが多い(個人客が愚かである一方で、セールスマンが上手いとこうなる)。特に、保険型の運用商品にあっては、実質的な手数料を知らされていない場合がほとんどだ。

 死亡保障の保険や、がん保険などの医療保険も含めて、生命保険の商品にあって顧客側が実質的な手数料に関する情報を得ることがほとんどできないことは、「消費者保護」の観点で極めて深刻な問題だ。保険は支払い額が高額にのぼる金融商品であり、購入者はその損得や売り手のモチベーション(いくら手数料を手にする売り手がその商品を売ろうとしているのか)について、正しく知る必要がある。これらは、投資信託の世界では当たり前に実現していることだ。

 さすがに、金融庁もこの問題に「気づいて」はいるのだろう。先般、銀行などの店頭で売られている一時払い型の保険商品について、手数料開示の義務付けを検討中であると報じられた。業界側の抵抗が強い問題なので、森長官及び金融庁がどこまで進められるかは、現段階では何とも言えないが、「フィデューシャリー・デューティー路線」を推進する上では正しい方向性だ。