株式を自由に売買できる市場がなければ、その会社の価値は「目に見える資産」、つまりバランスシートに載っている現金や売掛金、固定資産の清算価値以上にはならない。市場があることで、会社の価値がコスト・アプローチではなく、キャッシュフロー・アプローチで測定される世界に入れるのである。

上場前の株式は、ほとんどが創業者やベンチャーキャピタルなどの投資家に保有されているので、自由な売買はない。そのため、株式の適正な価値を判断する材料は、バランスシートしかないのだ。それが証拠に、未上場株式を担保に銀行からローンを借りるとすると、銀行はバランスシート上の資産からしか貸出枠を判断しないはずだ(あるいは、未上場株式は担保にすらならない可能性もある)。

一方、上場すると、多くの参加者が株を売買することで適正な価値が決定される。市場参加者は企業のバランスシートを見るのではなく、将来のキャッシュフローを予測して株価を決めるのだ。

言葉は悪いが、これは競馬において勝ち馬を予測するのと似ている。みんなが勝つと考える馬は人気が出てオッズが下がるのと同様、みんなが将来キャッシュフローを稼ぐと予測する銘柄は高い株価で取引されることになるのだ。

要するに、「起業した会社を上場させる」ということは、その会社が将来に稼ぐ利益(キャッシュフロー)を前倒しで手にすることを意味する。これがお金持ちになるための早道だ。年間1億円を稼げる会社をつくっても、30億円の利益を得るには30年かかる。

だが、上場させれば瞬時に30億円を手にすることができる。株式上場とは、将来の利益を現在に連れてくるためのタイムマシンなのである。