サザンオールスターズ、Perfumeやポルノグラフィティ、星野源といった多くの有名アーティストを抱える大手芸能プロダクション「アミューズ」の株価が2015年9月末に大幅下落したことがある。この事象は、会計的には説明がつかないが、ファイナンス的な視点を持っていれば容易に説明がつくという。このとき、いったい何が起きていたのか?
年間500件以上の企業価値評価を手がけるファイナンスのプロ・野口真人氏の新著『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』のなかから紹介していこう。
芸能事務所の株価が急落した理由
前回はバランスシートに基づいた会計的な思考が必ず見落とす「無形資産」にファイナンス的な思考が注目するということを確認した。
そして何よりも、すべての企業にとって決定的に重要な無形資産がある。
それはヒトだ。企業活動の源泉は、やはり従業員なのである。
しかし、驚くべきことに会計上のバランスシートには、従業員は資産として計上されない。たとえば、ある会社を解散すれば、清算価値分の現金1億円が手に入るかもしれない。しかしその背後では、その会社に蓄積されていた、有益なノウハウや強固な人的ネットワークといった膨大な無形資産が散逸している。会社の破産によって失われる価値は、清算価値の何倍、何十倍にも上るのだ。
この大きな損失を見落としかねないのが、お金中心で考える会計的思考の弱点だ。逆に、ファイナンスの強みは、こうした人的資本やブランドその他をひっくるめて、価値を考えることにある。
今回はこの論点について、少しだけ趣向を変えてお伝えしていくことにしよう。
アミューズという会社をご存知だろうか? 多くの有名アーティストを抱える、東証一部上場の大手芸能プロダクションである。有名どころで言えばサザンオールスターズ、もう少し若い世代向けで言えば、Perfumeやポルノグラフィティ、星野源といったミュージシャンが所属している。
同社のウェブページに行けば、アミューズのバランスシートは見ることができるが、どれだけ細かく見たところで、資産の部には特筆すべきものが何もないはずだ。
それもそのはず、この会社の価値を支えているのは、アミューズに所属しているアーティストやタレントといった「ヒト」だからだ。帳簿に載っている資産は、彼らを売り出すための小道具に過ぎない。
そんなアミューズの株価が、2015年9月末に大暴落した。
このとき、何が起こったのだろうか?