モノの「値段」はどのようにして決まるのだろうか? 多くの人は「原価」や「市場」によって価格が決まると考えてしまう。それは本当だろうか?

たとえば、コーヒー1杯の値段が「場所」によって変わるのはなぜなのだろうか? ほとんど原価がゼロに近いジュースが120円する理由は? バブル期に建てられたマンションの値段が低くなったのは?

年間500件以上の企業価値評価を手がけるファイナンスのプロ・野口真人氏の新著『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』のなかから紹介していこう。

銀座で飲むコーヒーはなぜ高いのか?

コンビニの100円コーヒーが登場してからカフェ業界もかなり大変だろうが、コーヒー1杯の平均価格は300円くらいだろうか。しかし、銀座などの喫茶店では1杯1000円もざらだ。

希少なコーヒー豆を取り扱うスターバックス銀座マロニエ通り店では、「パナマ アウロマール ゲイシャ」というコーヒーが1杯2000円で販売されている。通常のドリップコーヒー・ショートサイズの6倍以上の価格だ。使用されている「ゲイシャ種」はエチオピアを起源とする野生品種で、栽培が難しく収穫量も少ない。

しかし、希少価値があってどんなに高額な豆なのだとしても、1杯あたりの原価ベースで考えれば、通常の「ハウスブレンド」と「パナマ アウロマール ゲイシャ」とのあいだにそこまで大きな差があるとは考えづらい。

それに、これではほかのカフェでも値段が高いことの説明にはならないのではないか。銀座のカフェがこぞって高価なコーヒー豆を使っているとは思えないし、やはり、何か別の原因がありそうである。

ここで賢明な人は「銀座は地価が高いから」という回答を思いつくはずだ。たしかにこれが最も自然な答えに思える。銀座はいまだに1坪1億円という日本一の地価を誇る場所である。

これはこれで非常に納得がいく考え方ではないだろうか? つまり、コーヒー1杯の値段はコーヒー豆の原価、人件費、家賃、光熱費といったコストの総和によって決まるというロジックだ。

このような価値の考え方を、コスト・アプローチ(原価法)と呼ぶ。