ファイナンス的な価値の捉え方の特徴を一言で言えば、それは「未来に注目すること」だ。このような時間のズレを利用して、膨大な資金を集めているのが起業家と言われる人たちだ。また、ファイナンス的な思考ができる人には「コスト」という概念はないという。これはどういうことだろうか?
年間500件以上の企業価値評価を手がけるファイナンスのプロ・野口真人氏の新著『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』のなかから紹介していこう。
起業家は「タイムマシン」を利用している
モノの価値は「将来生み出すキャッシュフローの総額」――これがファイナンスの価値の考え方だ。これは「過去にかかったキャッシュの総額」に注目するコスト・アプローチや「現在取引されている価格」に注目するマーケット・アプローチとは対照的だ。
ファイナンスはとにかく未来を見る。未来から振り返って現在の価値を考えるのである。
これをうまく利用しているのは、ほかでもなく起業家(アントレプレナー)である。「フォーブス」誌が選んだ「世界の大富豪ランキング」を見ると、ほとんどが起業家と企業の大株主だ。
彼らがなぜ富豪になれたか、答えはシンプルだ。彼らがやったのは2つのこと。
(1) 起業した会社を、毎年キャッシュフローを生む企業に育てる
(2) その後、会社を上場させる
まず(1)は「毎年キャッシュフローを生む会社」というところがポイントだ。これによって、将来のキャッシュフローの価値総額を大きく見積もらせることができる。
ごく単純化した話だが、毎年1億円の利益を30年間稼げる会社だと判断されれば、その会社の価値は30億円になる(実際はもう少し複雑だが、これについては後日)。
ただし、「大富豪」になろうとするのであれば、これだけでは不十分だ。稼ぐ会社をつくったあとは、その会社の株式がファイナンス的価値に基いて取引される市場がなければならない。そこで必要なのが上場である。