どれだけ節約しても、あなたの価値は増えない

ファイナンス的価値の世界に踏み込むと、それにともなってさまざまな常識が通用しなくなる。

まず第一に出費・費用(コスト)の概念が変わる。日常生活では、費用はできるだけ抑えたいと思うのが人情だ。「倹約は美徳」の世界である。

しかし、ファイナンス理論には純粋な費用の概念はない。お金の出費はすべて投資と見なされる。出費とは、価値の尺度であるお金がいったん手元を離れることにすぎないのだ。これをキャッシュアウトという(逆に、手元にお金が入ってくることはキャッシュイン)。

要するに、キャッシュフローというのは、キャッシュインとキャッシュアウトの差額なのである。

いま、Jさんがスーツを新調しようとしている。いつもは量販店で1着3万円のスーツしか買わないのだが、その日は少し事情が違った。翌日に大事な顧客とのビジネスディナーがあり、大きな商談が控えているのだ。

商談を成功裏にまとめるためには見栄えも大事と考えたJさんは、1着10万円の高級スーツを買った。費用の面だけでいえば、ふだん買うスーツに比べ7万円もよけいな出費をしたことになる。

しかし、そこで支払う10万円は、明日の商談への投資である。実際に商談が成功することで得られるキャッシュインが100万円だとすれば、キャッシュフローは90万円(=100万円-10万円)だ。

一方、Jさんがふだんどおり3万円の量販店のスーツを着ていったとしたら、どうだろうか? 顧客に足元を見られ、50万円の取引しか成立しなかったとしよう。その際のキャッシュフローは47万円(=50万円-3万円)だ。

これと同様に、すべての出費は投資として考えられる。

・教育費 → 子どもが将来的により稼ぐ仕事に就くための投資
・スポーツジムの会費 → 長いあいだ健康に働ける身体をつくるための投資
・旅行代 → リフレッシュすることで、労働の意欲・効率を上げるための投資
・家賃 → 疲労した身体を回復させるための住空間への投資

これらはあくまでも一例であり、その目的はさまざまだ。屁理屈に聞こえるかもしれないが、パチンコ代ですらも「ストレスを解消し、働く英気を養うための投資」と言えるかもしれない。