「モノの価値は市場の総意で決まる」という考え方には、ある種の欠陥がある。それが最も顕著な形で現れるのが、オークションである。また、マーケットでの取引事例が少ないものの価値は、どのように考えればいいだろうか? たとえばパンダは? たとえば会社は?
年間500件以上の企業価値評価を手がけるファイナンスのプロ・野口真人氏の新著『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』のなかから紹介していこう。
絶対に損するお買い物、その名もオークション
前回確認したところでは、「モノの価値は市場の総意で決まる」という考え方には、どうやら欠陥がありそうだということだった。この考え方を価値評価のマーケット・アプローチと呼ぶ。
オークションでの値づけというのは、ある意味では、このマーケット・アプローチの延長線上にある。
「あのアイドルのチケットにみんなは3万円を出していいと考えて入札している。でも、自分はどうしてもチケットを手に入れたいから、3万2000円を出すぞ!」などと考えるわけである。
冷静に考えればわかることだが、これはちょっとおかしな話だ。最終的にあなたがそのチケットを落札できたのだとしたら、あなた以外のすべての市場参加者は「いやいや、そんな大金を出すほどの価値はないよ……」と考えているからだ。
つまり、オークションの落札者はつねに、みんなが考える適正価格よりも割高な買い物をしていることになる。言い換えれば、オークション出品者は合法的に「世界一の高値づかみ」をさせることに成功しているのだ。
このように、取引事例をもとに決まる市場価格は、現実の価値から大きく乖離することがある。その最たるものがバブルだ。5000万円の価値しかないマンションが、いつのまにか値上がりを続け、1億円とか2億円で取引されるようになるのは、人々が市場の取引価格だけを見るからである。