経営者は「生物学者」であるべき
【山田】僕はサイエンスの中でもとくに生物学が好きなんやけど、生物の世界ってめちゃめちゃ複雑なシステムでしょう? 簡単な法則では語れない。
【藤沢】あらゆる要因が関係し合っていますよね。
【山田】生物の暮らしている生態系にはたくさんの変数があって、お互いがお互いに作用し合っている。こうすればよくなると言えるほど単純ではないし、そもそも「よい」とはどういう状態かを定義するのも難しい。もともとそういう複雑な世界が好きやったというか、非常に惹きつけられた面があって、ビジネスや経営を考えるときにも、基本的には生物学的、生態系的モデルが自分の中にあるんですよ。
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。文部科学省参与などを務める。
テレビ番組やラジオ番組のパーソナリティとして、15年以上にわたり1000人を超えるトップリーダーに取材。成長企業のリーダーたちに学ぶ「リーダー観察」をライフワークとしている。
著書に4万部を突破した『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)など。
【藤沢】なるほど! 生態系の秩序というのは「おのずと出来上がっていく」という特徴がありますよね。さらに、何かちょっとしたきっかけで、一気に新しい秩序が生まれたりもする。
【山田】そう。新しい平衡状態が生まれる。けれど、それを人工的にやろうと思ってもなかなかうまくいかないし、思いもよらないことが発生して、結局また崩れてしまったりする。世の中とか会社にもそういう面があるじゃないですか。何かをやれば必ず波紋が広がって、新しい平衡が生まれる、というイメージで捉えています。
【藤沢】今ある平衡はずっと平衡ではない。
【山田】そう。だからまた変化が必要になる。企業についても「強いものではなく、変化するものが生き延びる」というように、生物学とのアナロジーでとらえている部分があるんですよね。僕はそういう「モヤモヤっとした世界」を意識しながら、会社の経営を考えているリーダーなんやと思います。
【藤沢】すごく共感します。まさに複雑系理論の話ですよね。つねにカオスのエッジみたいな状態にあるなかで、石を投げられて波紋が広がるとき、つまり揺らぎを与えられたときに、新しい平衡が生まれるという考え方です。
そういうモヤモヤした生態系の縁に立ちながら、山田さんはふだん何をしているんでしょうか? 観察する、とか?
【山田】そう、基本的には観察です。たまに石を投げてみたり。それでまた観察してみたり…(笑)。
【藤沢】そこで山田さんが投げているのが「ビジョン」なのだと思います。それを受け取った現場の社員さんたちが、思い思いにそれを解釈して動き回り、その結果として1つのロート製薬という会社としての平衡が生まれる、そんなイメージを抱きました。
【山田】なるほど。面白いイメージですね。