経営者は「企業の生物学者」である
ロート製薬会長・山田邦雄氏に聞く!(第2/3回)
【山田】新しいCI(コーポレート・アイデンティティ)として「NEVER SAY NEVER」という言葉を掲げたときにも、最初は社員も「はあ?」って言っていたようですよ。でも、創業記念日にそれぞれ7~8人のグループに分かれて、丸1日かけてディスカッションする時間をつくったことがあったんです。
そうしたら、みんな非常によく考えてくれた。「この部分は単なる『ど根性』を言っているのではなく、一人一人が自立して自分なりの目標を持って働こうという意味だ」とかね。工場の社員たちもよくわかってくれた。「あぁ、言いたかったことを本当の意味でみんなが理解してくれたんだな」と思って、あれはうれしかったですね。
【藤沢】私も『最高のリーダーは何もしない』でも書きましたが、「ビジョンについてメンバー同士に議論してもらう」というのは、ビジョンを浸透させるうえで効果的な取り組みですね。
今回の本を書き上げるなかで、いちばん苦しかったのは「理想と現実のギャップ」でした。
私は20年近くにわたり、さまざまな経営者やリーダーのお話を聞いてきました。そして、自分自身も小さいながら会社の経営者として仕事をし、多くのリーダーの話に共感してきました。つまり、「多少なりとも自分は理想的なリーダーシップについて、わかっている」という感覚があったのです。
けれど今回、新著『最高のリーダーは何もしない』の企画がちょうど通過したくらいのタイミングに偶然にも、私は文科省で「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム準備室」でリーダーとして働く機会をいただきました。
ここで私が目の当たりにすることになったのが、「中間管理職としてのリーダー」と「経営者としてのリーダー」の違いでした。
これは、「自分が資本を出して立ち上げた会社のリーダー」と、「雇われて会社のリーダーになった方」との違いにも共通するところがあるかもしれません。
自分の夢を語り、その夢に共感する人だけと共に走り続ける小さなベンチャーのリーダーと、必ずしもその夢に共感しているわけでもないメンバーにまず共感してもらうところからはじめなくてはいけないリーダーの違い。
一緒に働く人を選ぶことができるベンチャーのリーダーと、人事部から送ってきていただいた人を有無を言わさず受け入れてチームをつくらなくてはいけないリーダーとの違い。
文科省で働くまでは、何でも自分の思いを中心に実現してきたけれど、組織に所属すると、自分ではどうしようもない条件のなかで試行錯誤しなければなりません。
会社でミドルマネジャーとして活躍されている人たちにとっては、あまりにも当たり前すぎる事実かもしれませんが、人事権も予算権も何でも持っている経営者と、権限の限られた中間管理職との大きな違いを、このとき初めて痛感したのです。
そんなわけで今回の本は、これまで出会った数々のすばらしいリーダーたちの話を思い出しつつも、同時に「制約のあるなかで理想を追い求めるリーダーシップが、組織内でどこまで実現できるか」ということも意識した内容になっています。
言ってみれば、起業家としての自分ではなく、組織内で中間リーダーを務めるいまの自分にも向けた一冊なのです。そして実際、文科省のプロジェクトでも、数々のリーダーたちから得た知恵が日々とても役に立っています。
「組織やチームが自分の指示どおりに動かない」
「現場に思いが届かなくて、自分が動き回らざるを得ない」
「リーダーになるつもりなんてなかったのに……」
そんなリーダーたちの悩みを乗り越える「発想転換」への道筋を、読者のみなさんと一緒に見つけていきたいとの願いから、今回の一冊をまとめました。
『最高のリーダーは何もしない』――書店さんなどでお見かけの際は、ぜひお手に取ってみてください。
【藤沢久美氏 最新刊】
『最高のリーダーは何もしない
― 内向型人間が最強のチームをつくる』
なぜいま、内向的で、心配性で、臆病で、繊細であることが、よいリーダーの共通点になのか?
ビジョンによって人を動かす「静かなリーダーシップ」を通じて、自己躍動するチームをつくる秘訣とは?
1000人以上の社長に取材してきた著者が語る「次世代リーダー」へのエッセンス!!
【第1の発想転換】「人を動かす」から「人が動く」へ
──なぜ優秀なリーダーは「何もしない」のか?
【第2の発想転換】「やるべきこと」から「やりたいこと」へ
──「魅力的なビジョン」をつくるには?
【第3の発想転換】「命令を伝える」から「物語を伝える」へ
──人・組織にビジョンを浸透させる
【第4の発想転換】「全員味方」から「全員中立」へ
──リーダーは「嫌われない人」を目指せ
【第5の発想転換】「チームの最前線」から「チームの最後尾」へ
──「任せて見守る」チームマネジメント
【第6の発想転換】「きれいごと〈も〉」から「きれいごと〈で〉」へ
──リーダーに求められる「社会貢献」の視点
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