創業117年の歴史を持つロート製薬・山田邦雄氏(代表取締役会長兼CEO)と、1000人以上のトップリーダーを取材してきた藤沢久美氏による対談。

藤沢氏は最新刊『最高のリーダーは何もしない』の企画段階から、理想的なリーダーとして山田氏の在り方について語っていた。山田氏のリーダーシップにはどんな特徴があるのか? 藤沢氏をはじめ、産業界のリーダーたちをも惹きつける魅力はどこにあるのか? 全3回にわたって対談の模様をお届けする(第1回)。
(撮影/宇佐見利明 構成/高橋晴美 聞き手/藤田悠)

肩書きで呼ぶ必要はない。
若い社員も「邦雄さん」と呼ぶ

――藤沢久美さんの最新刊『最高のリーダーは何もしない』では、「優秀なリーダーは何もしないように見える」という藤沢さんの仮説がベースになっています。もちろん、これは「サボっている」という意味ではありません(笑)。
本来的な仕事に集中しているリーダーというのは、権限を現場に移譲し、自身はビジョンを伝えることに注力するので、バタバタと忙しく動き回っているように見えなくなる、というのが藤沢さんの唱える「最高のリーダー像」です。

本日はぜひ、山田さんのリーダー論もお伺いできればと思っています。よろしくお願いします。

山田 邦雄(やまだ・くにお)ロート製薬株式会社代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)
1956年、大阪府生まれ。東京大学理学部卒業。慶應ビジネススクールMBA(経営学修士)取得。
1980年、ロート製薬に入社。営業職、マーケティングを経て、1991年、取締役就任。1992年に専務、1996年に副社長、1999年に社長を経て、2009年6月から現職。
オープンオフィス、役職ではなく「~さん」という呼称など、ロート製薬の社内風土改革を行う。現在も会社の事業を超えて、新たな社会貢献の取り組みに力を入れる。

山田邦雄(以下、山田)】『最高のリーダーは何もしない』は大変面白く読ませていただきました。最初は「おかしなタイトルだな」と思ったけど(笑)、内容は非常に示唆に富んでいて興味深かったですよ。

藤沢久美(以下、藤沢)】ありがとうございます。タイトルについては、私の周囲でも賛否両論ですね。最初は私も「過激すぎないかな…」と思っていましたが、編集者さんの判断に従うことにしたら意外と好評でした(笑)。

山田】今回の藤沢さんの本の中には、すごい人の事例がたくさん出てきてはりますよね。そういう方々のリーダーぶりに比べて、果たして自分はどうなのだろう、と考えてしまいますし、たくさんのリーダーを見てきた藤沢さんが、僕をリーダーとして評価してくださっているというのは正直言って本当に驚きです。

藤沢】え~!! 創業117年の企業を率いる会長さんがなんてことをおっしゃるのですか。

山田】やらざるを得ないからリーダーをやっているけれど、そもそも根っからのリーダータイプというわけでもないんですよ。

藤沢】本にも書きましたが、「いかにもリーダー」という雰囲気がない人が素晴らしいリーダーシップを発揮している、という組織が増えているように思います。先日のG1サミットも、「山田さんが参加するなら行きたい」という方がたくさんいらっしゃいましたよ。

ちなみに、G1サミットというのは、日本をよくするために、各界のリーダーや研究者、アスリートなどが集い、学び、議論し、行動に移していくための集いです。日本版のダボス会議のようなものですね。

山田】リーダーシップというのは、ある意味「状況によるもの」だと僕は思うんです。同じ人が場面によってリーダーになることもあれば、メンバーシップを発揮すべきときもありますよね。この人はリーダー、あの人はメンバーというのではなく、状況に応じて、それぞれが役割を果たしていく、というのが本来の姿なんやろうなと。

藤沢】そう思います。メンバーとしてリーダーを支えた経験がない人は、いいリーダーにはなれないし、リーダーの経験を持つ人はメンバーとしても優れていますよね。「会社ではリーダー役だけれど、家庭ではメンバー役」というように、一人の人が状況に応じていろいろな顔を持っているのだと思います。

山田】そうですね。

藤沢 久美(ふじさわ・くみ)シンクタンク・ソフィアバンク代表
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。文部科学省参与などを務める。
テレビ番組やラジオ番組のパーソナリティとして、15年以上にわたり1000人を超えるトップリーダーに取材。成長企業のリーダーたちに学ぶ「リーダー観察」をライフワークとしている。
著書に4万部を突破した『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)など。

藤沢】ロート製薬さんでは、役職名ではなく、「さん付け」で呼び合うというお話を以前に伺いました。これも御社の個性だと思いますが、もともとは山田さんのアイデアだったとか?

山田】小さなことですが、社風を変えようと思ってそうしました。社員はみな、ロートネームという呼び名をつくって、社員証にも入れています。僕は若い社員からも「会長」ではなく「邦雄さん」と呼んでもらっているんですよ。

藤沢】「邦雄さん」! 素敵ですね。社長、会長と呼ばれるのが嫌だったんですか?

山田】好きじゃないし、やっぱり何か変だと思ったんですよね、直観的に。まず「肩書」が先に来るって、やっぱりおかしい。

事業戦略や製品について議論するのに、本当は立場なんて関係ない。最終的には責任ある人間が決めるけれど、まずはその前に議論やコミュニケーションが必要。それなのに、役職によって発言が制約されるというのは誰にとってもいいことじゃないなあと思っていました。

藤沢】なるほど。山田さんは創業者の曾孫で、4代目にあたるわけですから、幼少の頃から「ロートの山田さん」ということで周りから一目置かれて接されてきたんでしょうね。

山田】そういう面があったのは否めませんね。それがすごく嫌だった時期もありましたよ。「そんなもん、どうでもええやん」と思うのだけれど、相手はそういう目で見る。僕自身は丁重に扱われるより、フランクに接してほしいという願望のほうが強いですね。社内の雰囲気もできるだけフランクなほうが弊害は少ないと思っています。