外資系証券が日本から縮小・撤退する動きが加速している。日本の大手証券も海外事業を縮小するなど、証券金融業界は急速な構造転換に見舞われている。30年近くに渡り日本の金融市場を見続け、フランス人ながら合気道3段を持つ「日本通」、欧州金融大手BNPパリバ証券社長のフィリップ・アヴリル氏の目にはどう映っているのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)

――日本の外資系証券会社では日本株の調査部門や債券部門の縮小など“リストラ”の動きが止まりません。今、何が起きているのでしょうか。

フィリップ・アヴリル((Philippe Avril)
1960年フランス生まれ。1983年 エコール・ポリテクニック 数学・物理学専攻 修士課程修了。1985年、パリ大学 国際マクロ経済学専攻博士課程前半修了、フランス国立統計経済行政学院大学 統計学・経済学専攻 修士課程修了、パリ政治学院大学 経済学・政治学専攻修士課程修了。インドスエズ銀行、ドイツ銀行、第一勧業銀行(現みずほ銀行)、コメルツ銀行に勤務。ロイヤルバンク・オブ・スコットランド東京支店長などをへて、2009年にBNPパリバ証券東京支店支店長。11年BNPパリバ証券社長就任、12年よりBNPパリバ銀行東京支店 在日代表を兼務。Photo by Toshiaki Usami

 銀行を含めた金融業界では今、大きな構造変化が起こっています。振り返れば1980年台の半ばぐらいまでは、金融機関といってもとても伝統的な仕事が中心でした。基本的に「人間対人間」の関係で物事が進んでいました。互いの信頼があれば、お金を預けたり、貸し借りできたりしたからです。

 そこから、金融に数学を利用するという大きな変化が起こります。私も含めて、数学を専攻する人がこぞって金融業界に入りました。ここで金融派生商品など新しい金融商品が生まれ、業界の構図が一変しました。

 ですが、それが行き過ぎたために、2008年のリーマン・ショックが起こりました。金融商品が複雑になりすぎて、誰もそのリスクをコントロールできなくなっていたのです。

 その反省から、世界の政府は規制を強化するようにかじを切りました。その一つに「バーゼル3」があります。世界の規制当局は、国際展開している金融機関が高いリスクをとって利益を得る構造に制限をかけたのです。

 この規制は「行き過ぎ」という意見から「絶対に必要だ」という意見まで賛否両論あります。個人的には規制自体は必要だと思いますが、それでもバランスが必要だと思います。規制が強すぎると流動性がなくなり、金融市場そのものがうまく機能しなくなる懸念があるからです。

 実際、われわれには欧州本国の規制がかかっています。米国に関わる業務も大きいので米国の規制にも従います。その上、日本の規制もあるため、これら三つの規制をしっかり守らないといけない状況です。

 そのため、われわれだけではなく多くの金融機関が高いリスクをとって稼ぐことが難しくなりました。特に欧州、米国はリーマン・ショックを受けて国民の金融機関への反発が強かったため、規制が厳しくなっています。

――日本から撤退する会社も出ていますね。なぜ、BNPパリバは日本に残るのでしょうか。