30歳だった頃、当時勤務していたコンサルティングファームの同僚からよってたかって「鬼のようだ」と非難されたことがあった。酒席で新婚当時のエピソードをぽろっと話したときのことだ。
私が話したのは、妻に自分の年収を教えていないということ。それと生活費を15万円渡して「これで生活しなさい」と言って、妻には家計簿をしっかりとつけさせていたことだった。
もう少し非難されるように情報をつけくわえると、この当時の私はちょうど年収1000万円を超えた頃。それで同僚とフレンチのお店でフォアグラを食べているときにこの話が出たので、「お前はひどい人間だ」という話になって盛り上がったのだ。
実はこの話には続きというかオチがある。
非難されようが何と言われようが、その後もうちの家庭内ではこの習慣が続いていた。それで35歳になったときにネットベンチャーに転身することになった。当然、給与水準はがくんと下がる。
しかしうちの家庭では生活水準はまったく変わらず、家内は私の収入の変化に気づかなかった。
これは私にとってはある種の戦略で、要は「いつかコンサルを辞めて、別の仕事につく」ことを結婚前から決めていた。ところがコンサルティングファームのように年収が高い仕事についている人が、ベンチャーや中小企業など、ずっとリーズナブルな仕事につこうとすると、給与水準が問題になる。
私の知り合いで、30代前半で年収1000万円超えをしていた会社を辞めて、ロマンをもとめて中小企業に転職した人がいる。会社側が思い切って課長職と800万円の年収を用意して迎えた。実は年収800万円というのはその会社の本部長職よりも高い水準だった。
それでもその知り合いは生活環境が変わってたいへんだと言っていた。
私は年収が半減しても大丈夫なように30代から意識して生活水準を抑えていた。当時の会社では22時を過ぎたらタクシーで帰宅してもよかったのだが、終電間際でも地下鉄で帰宅するように心がけていたし、仕事の付き合いではフランス料理や高級日本料理のお店に顔を出していても、家族で出かけるのはいつもファミレスだった。