低賃金の仕事だったから、年金額が低くて老後は貧困――そんなイメージは過去のもの。今や、比較的所得が高かった人が下流老人に転落するケースが相次いでいる。「下流老人」の著者・藤田孝典氏に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)
元地銀マンでも下流老人に!
ささいなきっかけから転落が始まる
――著書「下流老人」(朝日新書)では、現役時代の年収が高いからといって、決して老後が安泰とは限らない。そんな事例が描かれています。
私は、ホームレス状態や生活困窮状態にある方を支援するNPO法人・ほっとプラスで活動してきた経験から、年収が高いから老後も大丈夫とはとても思えません。
以前は、低賃金の仕事に就いていて、老後に無年金や低年金で苦しんで生活保護を受給しなければならなくなる、というケースが比較的多かったように思います。
しかし最近は現役時代に、比較的所得が高かった人たちが相談に来られるケースが増えています。貧困に転落した理由はさまざまです。本人の病気やケガで医療費がかさんだ結果だったり、子どもなど家族の病気で、看護や介護が必要な状態が長引いた結果だったり。もう1つ、最近増えているのが単身世帯の貧困です。
もともと独身だったり、離婚や死別で1人暮らしとなった方々なのですが、特に男性は貧困に陥りやすい。たとえば、元地銀マンだった67歳の男性は、離婚をして妻と資産や年金を折半。月額12万円の年金暮らしをしていたのですが、あれこれ散財して家賃を払えなくなり、アパートを追い出されて、公園で生活をしていました。認知症の症状もありました。
今の若い世代はまだしも、60代、70代の男性たちは、仕事一辺倒で生きてきた方が多い。結婚している割合は高い世代なのですが、離別や死別で1人暮らしとなった場合、極端に生活能力が低いのです。家は荒れているし、食事はすべてコンビニ弁当か外食。当然、栄養が偏ります。病気になるなどして、だんだんと体が弱ってきて、要介護状態にまでいってしまう。
1982年生まれ、NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表、ブラック企業対策プロジェクト共同代表、厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で活動する一方、生活保護や生活困窮者支援のあり方に関する提言を行っている。主な著書に「下流老人」(朝日新書)、「ひとりも殺させない」(堀之内出版)など。
一方の女性は、12万円の年金でも、それなりにしっかりと暮らしていけていたりする。男性とは対照的です。
こうしたケースは、決して珍しくありません。よく「下流老人に転落しないためにどうすればいいのか」と聞かれます。もちろん、生活に必要な金銭の確保も大切なのですが、特に男性の場合は、現役時代に持っていた「家にお金を運んでくることが男の価値」という考え方を変えていく必要があります。下流老人に欠けている3つの要素は、収入(年金)と貯蓄、そして人とのつながりです。
――男性は「助けてくれ」と言えない人が多いですよね。
相談を受けていても、女性や若者は「助けてほしい」とストレートに言えるし、生活保護制度を説明して受給を勧めると「明日にでも申請に行きます」との返事が返ってきたりする。一方、男性だと「親族に連絡がいくのだろうか?迷惑をかけたくない」とか、「昔おもちゃを買ってあげた甥っ子にもバレるんですか?だったら死んだ方がマシ」といった返事が返ってくる。理想像に固執しすぎるため、生きることへの、いい意味での貪欲さが欠けている印象です。
「助けてくれ」と騒げる人は、強いのです。実は、孤独に耐えることが強さなのではなく、依存先が多い人ほど強い。私はそう考えています。男性の場合は、「助けてくれ」と口にできない弱さをどう抑制し、助けを求められる強さを身につけるか。ここに、孤独死や自殺を防ぐカギがあると思います。