社内の労働市場で認められないのに
「自分は優秀だ」と思い込む人たち
連載第16回で、社内や社外の労働市場で認められていない高学歴の社員は、はるか以前に手に入れた高い学歴などに固執する傾向があると書いた。筆者の観察では、こうした人たちは冷静を装っていても、底知れぬ劣等感を抱き、威信や名誉、プライドが傷つくことを恐れている。10代のときの受験勉強の成功体験が、意識から消えないからだろう。
そんな人たちが社会に出て、労働市場の競争で負けた以上、コンプレックスを持つのはある程度は仕方がないと思う。若い社員からも軽く見られるのだから、劣等感を持つのが当然なのだ。だが、その歪みがあまりにひどくなると「学歴病」になりかねない。
今回は、「社内労働市場で認められていない人」について考えたい。同世代の中で昇格が遅れたり、所属部署の長などから人事評価で低い扱いを受けたり、人事異動のときに引き取る部署がなく不本意な異動をさせられたりする社員のことである。
社内労働市場と対照的なのが、社外労働市場である。たとえば、新卒・中途採用試験を受けると、何らかの結果が突きつけられる。人材として認められているか否かが、本人にもある程度はわかる。それに対して、日本企業で働く場合、社内労働市場で行われる評価の詳細はなかなか本人にわからない。たとえば社内で自分が人事異動の対象になるとき、その背景や経緯などを詳しく伝えられることは少ない。
言い換えると、こうした環境では自分を省みることができない、勘違いした社員が生まれやすい。この中には、仕事ができないにもかかわらず、高い賃金を受け取り、40~50代になっても過去の栄光にしがみつく人もいる。そのような人が生まれる背景を探りたい。
自分にも何らかの原因があったりして、社内労働市場で認められていないにもかかわらず、「自分は優秀だ」と思い込んでいるフシのある人はいるものだ。そんな人の例を挙げよう。
2013年、労働組合ユニオンに40代半ばの男性が相談に現れた。人事部の部長から、会社を辞めるように言われているという。会社(金融機関、正社員1200人ほど)の業績はリストラをするほど悪いものではないようだ。それでも退職を勧められる。そこでユニオンに来たという。