ということで、ビジネスコミックの成功法則にもう2つ加えましょう。4「価格1000円」、5「絵が上手」です。

『ザ・ゴール コミック版』は成功法則を破った異色作

 ところが2014年末にダイヤモンド社から出版された『ザ・ゴール コミック版』は、その法則をあっさり破りました。

 もちろん、1「原作が堅めの名著・大著」と3「高い物語性」はバッチリです。1984年に発刊された『ザ・ゴール』は、全米で250万部。局所的生産性向上を否定した「TOC(制約条件の理論)(*2)」をアメリカに、そして世界に広めました。その17年後、ようやく翻訳版の出版が認められた(*3)日本でも30万部が売れ、古典的名著の仲間入りをしました。

 『コミック版』では、「3ヵ月後に閉鎖する」と言い渡された工場を舞台に、原作著者(をモデルにした外国人)が助言者として関わったり、主人公が上司や家族との関係に悩んだり、といったヒューマンドラマが繰り広げられます。

 しかし、その主人公は若い女性ではなく家族持ちの工場長ですし、価格も1200円(税抜)ですし、絵も少々堅めです。

5つの成功法則のうち3つ(2「若い女性が主人公」、4「価格1000円」、5「絵の上手さ」)を満たしていないというのに、これまた大ヒット作となりました。

マンガ版『経営戦略全史』の価値は何か?

 ちょうど1年前、PHP研究所から、「三谷さんの『経営戦略全史』をマンガにしませんか」とお誘いがあったとき、いろいろ考え、決めなくてはなりませんでした。

 まず、『まんがでわかる7つの習慣』以降、百花繚乱となったビジネスコミック市場において、マンガ版『経営戦略全史』に価値はあるのか?という点です。類書でいいものがあるなら、それの後追いをしても仕方ありませんし、類書がないとしても、そのマンガ化で新しい読者が増えないようなら意味がありません。

 なのでどんな原作が、どんなマンガになっているのか、調べてみました。

 すると、「経営戦略」領域では「ランチェスター戦略」と「孫子の兵法」以外には、あまり売れたビジネスコミックがないことや、戦略論全体を対象にしたものがないことがわかりました。

戦略論はマンガにしにくい? 全体を対象にするともっと難しい?

 これは、挑戦しがいがあるというものです。世の中にないというならやってやりましょう。俄然やる気が湧きました(笑)

*2 Theory Of Constraints。複数工程がある場合、ボトルネック工程(=制約)を中心に管理・改善を図ることでのみ、全体が良くなるとする理論。
*3 「日本企業をこれ以上強くしたくない」と、著者の意向で日本での翻訳書出版が許されなかった。