地道な現場の意識改革なしに企業の抜本的な改革はできない Photo by Kouichirou Imoto

 三菱自動車が燃費偽装問題で大揺れだ。

 2004年のリコール隠し問題で経営危機に陥った時、筆者は自らが運営する事業再生ファンドで33%強の株式を掌握した上、取締役事業再生委員長として同社の再建に関与した。今回の三菱自動車の不祥事は、当時から横たわっていた社内風土の問題が源流にあって発生したものであることは間違いない。

 そういう背景からか、今回の問題が発生してから、なぜか当時の資料の一部がメディアに流出し、その内容に改めて焦点が当たっているように思われる。その一方で、的外れなコメントをする識者や、果ては「潰れてしまえ」といった乱暴な意見までもが散見される。

 この期に及んではやむを得ない。社員をはじめ、真面目に働いている関係者の名誉のためにも、当時再生支援に取り組んだ経験から、開発機密など守秘義務に抵触しない範囲で、既にネット上に開示されている資料のみを例示しつつ、当時既に報道されていた内容に基づいて事実をなるべく正確に整理したい。それと共に、改めて同社の再生のために何が必要かを考えてみたい。

新たなリコール隠しで
支援スキームが瓦解寸前だった前回の経営危機

 04年4月23日、それまで筆頭株主として三菱自動車を支えていたダイムラークライスラーが追加支援を拒否し、出資を引き揚げる意向を示したことが前回の危機の発端だった。

 同年6月には、乗用車の新たなリコール隠しが突然発表された。既に5月に支援を決めていた筆者が運営するPEファンド(フェニックスキャピタル、現・ニューホライズンキャピタル)はもちろん、関係者の多くにも抜き打ちに近い形の発表だったので再生支援は瓦解寸前になった。

 それは、このことが、その前の2000年に発覚したリコール隠し問題がまだ解決していなかったことを意味するからだ。筆者のところには多くのマスメディアから支援を予定通り続けるかどうかの問い合わせがあったが、メインバンクなど関係者の結束によって何とか支援は実施された。その際に、我々がJPモルガンと組んで、格付けがC(債務不履行の可能性が高いとの認定)であった同社に対し、2000億円もの増資を実施できたことは奇跡に近かった。