離陸から数時間は平気だった。しかし成田に着く1時間ほど前、機体が乱気流に巻き込まれた。シートベルトで身体が固定されているときにRさんは以前よりもはっきりと、発作が襲ってくるのがわかった。カラダのなかから不安感が波のように襲ってきて何も考えられない。飛行機から出て新鮮な空気を吸いたいと思った。降りられないと思えば思うほど焦ってしまう。

 このときも、キャビンアテンダントに助けを求め、飲み物を飲み、少し話をすると落ち着いてきた。窓際の席は恐怖があると訴えると、ファーストクラスの席を融通してくれた。シートを倒してじっとしていると動悸息切れが少しずつ軽くなっていくのがわかった。成田に着いたとき、これほどまでにホッとしたことはなかったと感じるほどだった。

通勤電車でも発作を起こすように…
閉所恐怖症とパニック発作に苦しむ

 Rさんは、その後、満員電車のなかでも何度か発作を起こした。発作を繰り返していると電車に乗ることさえ恐怖になってきた。満員電車から途中下車した駅で立っていられないほどめまいに襲われたとき、会社には出社せずに、休みをとって知り合いの医師を訪ねようと思った。

 腰痛もちのRさんは、もともと長いフライトがそれほど得意ではなかったが、以前は映画を見たり、機内食を食べたり、日頃の睡眠不足を補うためにぐっすり寝ていた。ところが今では、飛行機での移動が恐怖に変わってしまった。商社マンは心も体もタフでなくてはいけないと思っていた。

 とはいえ、これを機会に少しその考え方を改めようと思った。そして、これをきっかけに心臓をはじめ全身の健康診断もきちんと受けておこうと心に決めた。

 心の病に詳しい杏林大学医学部精神神経科教室の中島医師は、こうした症状について、次のように語る。

「この方は、飛行機で発作が起きたということなので閉所恐怖症も考えられます。そして、満員電車などの人が混雑している閉鎖的な狭い空間などで突然、動悸や呼吸困難等でパニックに陥り、『このまま死んでしまうのではないか?』などの強い不安や恐怖に襲われてしまうのがパニック発作です。

 パニック発作自体は生命身体に危険を及ぼすものではないのですが、何度も繰り返していると、発作に恐怖と不安を覚えてそれがストレスとなっていきます。動悸や息切れがする場合、まずは原因を特定するためにも内科の精密検査を必ず受けてください。検査結果が正常で、それでも動機や息切れが続く場合は、精神科を受診してください」

(日本医学ジャーナリスト協会 医療ジャーナリスト 財団法人日本ヘルスケアニュートリケア研究所 所長市川純子)