たとえば、朝、労働組合の幹部と会って、「非正規労働者を減らして、企業の内部留保を取り崩し、賃金を上げてもらわなきゃダメですよ」と言われれば、その日の午前の記者会見でそう言って、その日の夜に経団連の幹部に会って「雇用を流動化して賃金を下げなきゃ経営がきつい」と言われれば、次の日の記者会見ではそう言う、みたいな。

 彼のやっていることが、僕らから見ると矛盾だらけで整合性が全くとれないように見えるのは、そのせいなんだろうと思うんですよね。中身が「真空」だから、すべての勢力にとって、あれほど担ぎやすい神輿はない。

──消費増税の行方、伊勢志摩サミット、7月の参院選は衆参同時選挙になるのかなど、今後も何かと政治テーマが続きます。

 もう今は、あらゆる人々が安倍首相を押したり上げたり引っ張ったりで、五体分裂みたいになってるでしょうね。それらを全部咀嚼して出してくるのはなにか。もはや予測不能ですよ。

 そう思うと、政治部記者の仕事の仕方が、そろそろ時代に合わなくなっているんじゃないかと思いますね。

 三角大福中の派閥政治が華やかりし頃は、自民党本部と大物政治家が事務所を構える砂防会館のあいだを行ったり来たりすれば、政治部記者は記事を書けた。そこが権力の足元であり、かつまた、権力が行使される現場でしたから。

 でも、小選挙区制になって派閥政治は終わった。今度は派閥ではなく、世論そのものが権力を生むようになった。それをポピュリズムというのは簡単ですが、とにかく権力を生む場所はもう、砂防会館と自民党本部のあいだにはないんですよ。そうでなく、地元の愛国おじさんのようなところまで行かないと、世論の動きはわからない。官邸から半径2km圏内だけにいるだけの政治部の記者にとっては、ずっと予測不能で終わるでしょう。

メディアの流れをこの本から変えたい

──連載中、新聞やテレビといった大手メディアからの反応はありましたか。

「日本会議の研究」(扶桑社新書) 800円(税抜)

 何もないです。だからすごく不安でした。

 政治部の記者はさっき言ったように官邸から2km圏内でしか生活していないので、日本会議のことなどご存じないのかもしれませんが、社会部の記者は知っているはずなんです。

 でも社会部があまりに日本会議のことを書かないので、もしかして僕が間違っているんじゃないかとずっと不安でしたね。マラソンで周りにランナーがいなくて、観客もいなくて、もしかしてコース間違えたのかなという感じ(笑)。