北東アジア地域では、中国、日本、韓国の関係悪化により、ナショナリズムが沸騰している。多くの国が日本の“右傾化”を非難あるいは警戒しているが、筆者は一貫して、現代日本とナショナリズムに関して、次のような関心を抱いている。
1.日本人は以前よりも国家主義的になっているか?
2.日本の政治家は以前よりも国家主義的になっているか?
3.安倍首相は国家主義的か?また、積極的に国家主義的な外交政策を打ち出しているか?
4.もし日本が国家主義的になりつつあるとして、何が国家主義の成長を促しているのか?また我々は、それを警戒する必要があるか?
この議論は、イエスかノーで答えられるほど単純な問題ではなく、非常に複雑化している。本記事ではこれらの問いに、わかりやすく、かつ、より微妙なニュアンスをも含めた回答を提供したい。
日本人は以前よりも
国家主義的になっているか?
国際基督教大学准教授。1971年カナダ生まれ。2004年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程(国際関係)修了、2009年同博士課程修了。2007年早稲田大学アジア太平洋研究科のリサーチ・アソシエイト、2009年香港中文大学日本研究学科助教授に就任、2014年より現職。早稲田大学「アジア地域統合のための世界的人材育成拠点」シニアフェロー、香港中文大学香港アジア太平洋研究所国際問題研究センター研究員を兼任。研究テーマは北東アジアの国際関係、日中関係、アジアの地域統合及び地域主義、非伝統的安全保障、人間安全保障、移民及び入国管理政策。
ヘイトスピーチの出現や新大久保の路上で人種的中傷を叫ぶ小グループによる暴力、また日本会議・さくらチャンネル・在特会等の国家主義的言説などは、ある程度ではあるが、日本人が以前よりも国家主義的になっていることを示している。
だが、これら周辺グループが支持する見解は、日本人の主流の価値観ではなく、また意見でもないと言われる。たとえば、アンチ韓国人グループ「在特会」のヘイトスピーチは、侮蔑的な攻撃に加えて、在日韓国人は韓国に帰るべきだと主張している。しかしながら、少数派によるこれらの人種差別的攻撃は、数々の全国的調査にみられる日本人の意見とは、まるで対照的だ。
統計数理研究所が実施した最新の「日本人の国民性調査」によると、日本人は以前より国家主義的にはなっておらず、むしろ、多くの点で以前よりもオープンになっていることがわかる。たとえば、国際結婚の容認率は上昇(1988年の29%から2013年は51%に)している。