正しい道を進めば
商売も社会も繁栄する

 このように、幸之助さんは普通の人が歩もうとしない道をあえて選ぶことによって、世の中の真理を解明してきたといえる。世の中に絶対的な真理などあるのかどうかは誰にもわからない。人間が何千年もの間議論を続けてきて、いまだに結論の出ていないテーマだ。

 ところが、幸之助さんは、「世の中には正しい道(真理)が必ずある」というところからスタートする。「正しいことを実行していれば、必ず相手にも分かってもらえ、商売が繁盛する。その正しい商売の道を広めることで社会が繁栄する」という風に世の中を見ているのだ。

 このため、うまくいかないことがあると、「それは自分が正しい道を発見できていないからだ」と考える。そして、二つの選択肢(つまり代替案)を立て、いずれが正しい道なのかを解明しようとする。その結果、実際に真理を発見してしまうのだ。

 普通の人はこの逆をやってしまうことが多い。自分は正しいことをしているという暗黙の前提に立って、「うまくいかないのは環境が悪いからだ」「顧客は何も分かっていない」と考える。このため、うまくいかないやり方を変えようとしない。

 二つの選択肢をもつということは、頭の中にある解決策をポッと取り出して実行するのではなく、自分自身もその効果に気づいていないような仮説をあえて立ててみることを意味する。しかし、いま頭の中にない選択肢をたぐり寄せることは簡単ではない。そのために幸之助さんがやってきたことが、「衆知を集める」ことだ。

 幸之助さんは元々体が弱く、自分ひとりですべてが成し遂げられるとは考えていなかった。このため、何か問題があると問屋の経営者や社員たちに「僕はこう思うんやけど、あんたはどう考えるんや?」と話しかけ、積極的に対話を行った。先ほどの千本氏の話からも、その姿が窺える。

 これが幸之助さんの無意識の世界を活性化させ、選択肢の幅を広げていったのは間違いないだろう。そして、誰も歩んだことのない、難しい方の道をあえて歩むことによって、それがもたらす効果を発見してきたのだ。

 また、「正しい道は必ずある」というスタンスに立ち、迷える多くの経営者たちにアドバイスを与え続け、彼らが正しい道を見出すことを助けてきた。その結果、「経営の神様」と呼ばれるまでになった。いまでも幸之助さんのことを慕う人は多い。

 まだ発見されていないだけで、「正しい道は必ずある」というモノの見方は、ジェフ・ベゾスの次の世界観に通じるモノがある。

「世の中にはまだ発明されていないものがたくさんある。今後新しく起きることもたくさんある。インターネットがいかに大きな影響をもたらすか、まだ全然わかっておらず、だからすべては始まったばかりなのだ」

 情報革命後の世界のように、環境自体が激しく変わる時代だからこそ、幸之助さんの生き方が通用するのではないかと思えてならない。

 本連載『超ロジカル思考 発想トレーニング』は今回で終了です。最後まで読んでいただいた皆さんには厚く御礼申し上げます。