『もしドラ』『もしイノ』を読んで、マネージャーをやりたくなった
岩崎 『もしイノ』のテーマの一つは、その名の通り「イノベーション」なんだけど、日本ではいま、これまでうまくいっていたことがいかなくなってきています。家電メーカーは世界での競争力を失い、出版業界も昔に比べて本が売れなくなっている。だからこそ、新しい価値を生み出していかないといけないんだけど、それがまた難しい。過去うまくいっていたやり方にひきずられてしまうし、何が新しい価値なのかがわからないから。
仲谷 『もしイノ』に引用されている『イノベーションと企業家精神』には、そのイノベーションがどういう時に起きるのか、ということが書かれていますね。新しい物を生み出す機会となるのが変化だ、と。
岩崎 アニメの業界でも、昔と比べて変化が起こっているんじゃないですか?例えば、作品制作のための資金が集めにくくなっているとか。これは映画の世界の話だけど、『ゴッド・ファーザー』や『地獄の黙示録』を監督した巨匠フランシス・フォード・コッポラは、いま何をしてるか知ってますか?ワイナリーを経営してるんですよ。
仲谷 えっ!映画だけじゃなくて、ワインをつくっているのですか?
岩崎 そう。そしてこのワインビジネスがあたって、コッポラはすごい富豪になった。だから今彼はワインで儲けて、自分の好きな映画をつくれるんです。仲谷も何億かほかのビジネスで稼いで、それをもとに自分のアニメをつくったらどうですか。そうしたら、主役もやれる。
仲谷 おもしろいですけど……私が今やりたいことではないかな(笑)。今は、監督さんやスタッフの皆さんに、「仲谷を使いたい」と思ってもらいたいです。必要とされたい。作品の中で、「こいつを活かしたい」と思ってもらうことが目標ですね。
岩崎 「仕事で必要とされる」というのは、社会に居場所ができる、ということですよね。『もしイノ』のもう一つのテーマは「居場所」なんだけど、それを今仲谷は声優としてつくろうとしている。
仲谷 そうですね。まずはそこからかなって。
岩崎 皆に必要とされる声優になったら、そこから自分なりの付加価値をつけて、差別化していくのもいいと思います。例えば、僕はいま作家として自分の作品を書くだけでなく、出版社を経営して編集として作品を生み出そうとしています(*1)。こういう近くの業種への進出は、個人だけでなく企業においても最近増えているんですよ。
(*1)編集部注:岩崎氏は2016年より岩崎書店の取締役に就任
仲谷 そういう観点で言うと、近い仕事でやってみたいのは、マネージャーかな。タレントのマネジメントをやってみたいです。
岩崎 なんと、ここで『マネジメント』につながるとは(笑)。それって、『もしドラ』を読んでマネージャーという存在に惹かれたんですか?
仲谷 『もしドラ』を初めて読んだ時は、そこまで考える余裕がなかったんですけど、今回『もしイノ』を読んで、『もしドラ』を読み返してみたことは関係あるかもしれません。どちらもすごくわかりやすく書かれてるから、「マネジメント」も「イノベーション」も、自分にできるんじゃないかと思わせてくれるんですよね。
岩崎 いいですね。マネージャー、仲谷に合っていると思います。
仲谷 マネージャーさんって、かっちりした人が多いなと思って。私はけっこう適当だから、営業活動とかいろいろな場面で「既存の枠組みを取っ払っちゃったほうが、タレントさんのためになるんじゃないかな」って思うことがあります。
岩崎 それがまさにイノベーションですよ。
仲谷 あ、無意識にイノベーションのこと考えてたんだ(笑)。伝統を守ることも大事だけど、やり方を変えることで新しいものが生まれることもあると思うんですよね。
岩崎 新しい価値観を人に与えるというのは、立派なイノベーションなんです。すごい、仲谷がドラッカーを理解してくれててうれしいな。あと、『もしドラ』『もしイノ』が、「自分はマネージャーやりたい」と気づくきっかけになってよかった。
仲谷 そう、タレントなどの職業じゃない人でも『もしイノ』を読めば、自分にできることはなんなのか、見つかるんじゃないかと思います。自分のやるべき仕事を見つける。それはつまり、居場所をつくるということでもあるんですよね。(了)