『もしドラ』第2弾となる、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』(通称『もしイノ』)の刊行を記念した特別対談。今回は「ホリエモンチャンネル~居酒屋バージョン」に著者の岩崎夏海氏が出演し、堀江貴文氏と『もしイノ』の内容や、今必要なイノベーションについて語り合いました。この記事は番組を再構成したものです。
(構成:山田マユミ、写真:京嶋良太)

なぜ、“二匹目のどじょう”と言われる続編を出したのか?

堀江 今回、岩崎さんには、新しい書籍を出されたということで来ていただいたわけですが、それが『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』ですね。『もしイノ』は、『もしドラ』当たったから、二匹目のどじょうとして出したんですか?(笑)

岩崎 二匹目のどじょうは、できればやりたくなかったんです。マーケティング的に見ると二匹目はおいしいように思われるかもしれませんが、長いスパンで考えると、作家にとっては得ばかりではないんです。前作より面白くなければならないという高い期待もありますし、まわりからもネガティブなイメージで見られがちです。

 焼き畑農業に近いというか……適度に売れたとしても、よほど面白くない限り悪いイメージが付く。それに、もし「2作目はやっぱりダメだ」という評判が広まってしまえば、そこから先の作家人生がなくなってしまうんです。

堀江貴文(ほりえ・たかふみ)
1972年、福岡県八女市生まれ。実業家。元・株式会社ライブドア代表取締役CEO。SNS株式会社ファウンダー。東京大学在学中にインターネット関連会社(のちのライブドア)を起業。その後、東証マザーズ上場するが2006年に証券取引法違反で東京地検特捜部に逮捕され、懲役2年6ヵ月の実刑判決。著書に『ゼロ』『本音で生きる』など多数。

堀江 ネガティブなイメージですか……。そういえば、なぜ『もしドラ』の映画はダメだったんですか(笑)。

岩崎 それを言わせるんですか!?(笑)……まぁ、簡単に言うと、僕のプロデュースが失敗したということです。一番失敗したのはスケジューリング。あの映画の主演を務めた前田敦子さんは、撮影当時ものすごく忙しい時期でもあり、撮影日数が非常に限られてしまっていました。そのために無理な撮り方になってしまい、前田さんは徹夜で撮影に臨まざるを得なくなりました。

 しかも真冬に真夏のシーンを撮らなければならず、空の色一つとっても、入道雲もなければ冬空そのものの状態。それをCGを使って夏らしさを無理やり演出したりするから、現実感がなくなってしまったんですね。野球部の男の子たちにしても坊主ではないし、彼らが野球をするシーンだって十分に練習できていなかったから、どうしても臨場感がなくなってしまう。そういうことが敗因でしょうね。

堀江 映画は本の販売促進のためにはとてもいい機会ですが、『もしドラ』がベストセラーで評判が良かったのに、映画がうまくいかなかったために、逆にネガティブなイメージがついてしまった感はありますよね。僕はね、この映画を刑務所の中で見たんですが、もし刑務所にいなかったら、見なかったと思いますよ。

岩崎 そうですね。正直に言えば、映画の失敗によってイメージが下がった面がないとはいえません。なんというか、「本がつまらないから映画がうまくいかなかった」という印象を与えてしまったのかもしれません。

堀江『もしイノ』は、ドラマ化や映画化はどうするんですか?

岩崎 もちろん、まだ何も考えていません!それ以前に、前作よりつまらなかったら作家人生が終わってしまうという危機感がありましたから、内容だけは間違わないようにしようという、ある意味、背水の陣で臨んで書きました。

秋元康さんに言われた「岩崎は壊れた時計だ」の真意

岩崎 堀江さんと違って、僕はネットでものすごく人気がないんです。かなり嫌われているんですよ。昔、ハックルというあだ名でブログを書いていたんですが、よく炎上していました。

堀江 炎上なんていつもしてますよ、僕は。

岩崎 いや、堀江さんの炎上と僕の炎上は違うんです。堀江さんは炎上しても、半面すごく好いてくれる人もいますから。僕の場合は、好いてくれる人がほとんどいないんですよ。

堀江 いやぁ、それは知名度の問題でしょう。

岩崎 もちろんそれもありますが、傍から見ると、堀江さんには健気なところがあるというか、不器用な部分が見えるんです。オーバーな言い方をしたら、守ってあげたい、応援をしてあげたいと思わせる独特の健気さがあるんですよ。でも僕の場合は、どうも頑健というか、ふてぶてしく見えるのか、「あいつは叩いても大丈夫だろう」という扱いを受けるんですよね。だから本の内容も叩かれやすいのではないかと思うんです。

堀江 ずいぶん卑屈じゃないですか(笑)。

岩崎 確かに、自分でもまぁ、卑屈だと思います。

堀江 卑屈キャラは定着していますよね(笑)。会うと「俺はどうせ……」的な話になるし。

岩崎 でも僕、昔、秋元康さんから「岩崎は止まっている時計だ」って言われたことがあって……。

堀江 またカッコいい表現をしますね、秋元さん。

岩崎 そうなんです。「頑固な岩崎は針が止まっている時計だけど、みんなの後追いをする5分遅れている時計よりはいい。5分遅れている時計は、1日に1度も正しい時間を示さない。でも、止まっている時計は、1日に2回だけ、正しい時間を示す。だから、止まっている時計のほうが強いんだよ」て言われたんです。

堀江 秋元さんは詩人ですからね。

岩崎 堀江さんも秋元さんに、何か言われたんですよね?『ゼロ──なにもない自分に小さなイチを足していく』を出したときに。

堀江 ああ……「この本は50万部は売れるけど、100万部は売れない」って言われました。「『ゼロ』というタイトルでは50万止まりだ」って。もっと早く相談してよって言われましたもん。でもタイトルが決まっているどころか、パッケージができて後戻りできない状態で言われたんですよね。

岩崎 でも、これだけ売れれば十分でしょう。

堀江 いやいや。この間、久しぶりに増刷が決まりましたけど、まだまだ文庫化せずに頑張って売っていますよ。

岩崎 1年、2年と、時間をかけてじっくり売っていくということですね。書籍はこれまで足が速いものが多く、パッと火がついても、売れなくなったらすぐに消えていくという時代でした。でもそれが今は、良いものをじっくり売っていく時代に入ったのかなと感じています。