やっかいなのは、前頭側頭型認知症というタイプです。このタイプの認知症は、我慢ができず、社会性が保てなくなる傾向があります。このため、言うことが朝令暮改でコロコロ変わる。もともと頭がよく、勘の鋭いカリスマ性経営者だった場合、周囲がなかなか気がつかない。「社長のひらめき経営がまた始まったぞ」と思ってしまう社員が多いのです。

 経営者ではないですが、うちの病院では、有能な幹部職員で急にミスが頻発するようになったことがありました。その幹部職員の後継者となるべき部下も、次々と辞めてしまって「おかしいな」と思い、面談したら若年性アルツハイマー病だったことがありました。

病院に連れて来れらない
やっかいなカリスマ経営者

――経営者の認知症が疑われたら、やはり、早く専門医の診断を受けるべきなのでしょうか。

Photo by Takeshi Yamamoto

 カリスマ性のあるワンマン経営者の場合、それができないから大変なのです。私が一度、認知症の診断を行った結果、本人の意向で親族に経営権を譲ったはずなのに、その認知症診断を受けたこと自体を忘れてしまった方がいました。困った親族が本人を連れて来院した際、私が認知症であることを再度、診断して伝えると「ふざけるな。俺はボケてはいない」と怒りだして病院を出て行ってしまったことがありました。

 中には、家族が「ただの健康診断だから」と言って病院に連れてきたこともありました。当然、認知症の診断だと気がついた途端に、怒り出します。家族からは「先生、説得してください」と懇願されますが、どうにもなりません。

 周囲が何もできなければ、会社はなくなってしまうでしょうね。

――状況は深刻ですね。どうしたら良いのでしょう。

 認知症は誰でもなる可能性があります。普段から自分も周囲も認知機能が衰えていないか、常に気をつけておくこと。いくら個人差があるとはいえ、経営者自ら一定の年齢になったら第一線を退くという覚悟が必要なのではないでしょうか。

 男性の平均寿命は約80歳、健康寿命は約73歳です。様々な判断を下す企業経営者の場合、「死ぬまで現役」というのは、やはりおかしい。高齢の経営者は「後任が育たない」と必ず言いますが、それは「あなたがいるから育たないのです」と言いたいですね。

 実際に診断したわけではないので、無責任なことはいえませんが、有名企業の経営者や政治家の中にも、テレビなどで様子を見ると、正直なところ「この方はちょっと怪しいな」と思う人がしばしば目につきます。

 社会的にも制度として認知症対策をきちんとしておかなければ、我が国は大変な事態になってしまうと思います。