『月刊総務』では、例年1月号で「戦略総務」の在り方を取り上げてきた。今回は経営課題を解決する上で総務の役割がキーポイントとなると唱える、ダイヤモンド・オンライン事業部部長の田村淳一さんと、『月刊総務』編集長の豊田健一が、これからの総務を展望する。
経営層はバックオフィスに
もっとスポットを当てるべき
豊田 2015年3月にワークスタイルコンサルティングなどを行っている企業のセミナーで田村さんにお会いし、一度、じっくりとお話ししたいと思っていました。弊誌では新年号で総務の在り方や課題について提言してきましたが、今回は「これからの総務はどのような役割を担っていくべきか」というテーマで、田村さんと意見交換をさせていただきたいと思います。
「ダイヤモンド・オンライン」(以下、DOL)といえば、さまざまな角度から経営にフォーカスされていると認識しています。最近は「経営×オフィス」「経営×人事」「経営×物流」といったテーマを取り上げていますが、田村さんはなぜ、総務あるいはスタッフ部門に着目されたのでしょうか。
田村 DOL編集部として活動する中で、営業や生産部門といったフロントオフィス(ライン部門)に比べて、バックオフィス(スタッフ部門)にはスポットが当たっていないように感じたことがきっかけです。
DOLは経営課題の解決に資する記事を提供することを方針の一つとして掲げています。人事や知財、法務を担当する方々ともお会いする機会が多いのですが、みなさん当然ながらスペシャリストとして業務に当たっているわけです。そのことに、もう少し注目すべきではないかと思い至りました。もっといえば、バックオフィスにスポットが当たることで、何か企業活動のメリットとなるものが見えるのではないかと思ったのです。
たとえば現在、転職をテーマとした取り組みを事業会社と提携して運営していますが、総務、経理、人事の転職案件が想定した以上に多く、実際に人材も流動しています。こうした動向を見ていて、社内では見落とされがちなスタッフ部門のスキルには外から見れば非常に価値があり、スタッフ部門のビジネスパーソンもさらなるキャリアアップを目指して転職する傾向にあるのではないかと思いました。
そうした経験から、バックオフィスの重要性をもっと経営層に伝える必要があると考え、これまでオフィス、人事、物流にフォーカスしてきて、次はいよいよ総務を取り上げたいと予定しているところです。
豊田 バックオフィスはおそらく他の部門の社員にとって、絶対に必要だけれど普段はあることを意識しない、空気のような存在なのではないでしょうか。いざというときには頼れる存在であり、専門性の高さに驚く人も多いかもしれません。
田村 本来、総務は社内を回って困りごとを集め、課題解決の施策の実施を通じて会社の生産性に寄与する立場であると思いますが、社内を回る際も現場で何が行われているかを知らないと、そこにある課題に気付けないことがあると思います。やはりフロントオフィスの実務を知っていることは、とても大事です。
当社では新入社員時営業からスタートし、編集や記者などいろいろな職場を経験します。現に総務部長は編集と営業の経験者ですが、現場を知っていることで契約書一つを取ってもチェックの視点が鋭く、感心することもたびたびです。
ある程度、知識や経験の幅を持った人がバックオフィスに就くことで、企業は強くなる。理論であってもメソッドであっても、どの会社にでも当てはまるというものではなく、その企業にとって固有のものです。そうであれば、自分の会社には何が当てはまるのか、何が起こっているのか、俯瞰して見ることができる総務は、これから大事な存在になってくると痛感しています。
豊田 確かにそうですね。しかし現状では人材が限られている中で、どうしても経営層はフロントに注目しがちです。田村さんが問題意識を持たれたように、バックオフィスにスポットを当てるためには経営層の明確な意思、判断といったものが必要であるといえるでしょう。
田村 私は前職でずっと営業でしたが、経理をやってみろと上司からいわれたことがありました。要は経理を担当することで、お金の流れを俯瞰して見ることができ、その上で営業に戻れば経営目線を持った営業になれると。今になって、その意味がわかりました。こうした話を発展させれば、フロントオフィスからバックオフィス、さらにフロントオフィスに戻るというローテーションがあってもいいのではないでしょうか。
豊田 私もリクルート(当時)での最初のキャリアは経理でしたが、部長から「経理でやっていきたいなら一度営業に出ろ」といわれたことを思い出しました。アドバイス通り営業を経験したことで、経理であっても伝票を見れば営業部門の動きがわかるようになりました。現場を知っていることで「べき論」だけでなく、落としどころが見えるようになるんです。
これからは総務の経験、営業の経験ということではなく、いろいろなことを加味したバックオフィスの在り方が求められるということでしょうね。